S×R 鷹連載 | ナノ


034


暢気に空高く円を描く鴎が3羽。
暑くもなく寒くもなく、体感温度は非常に心地良い。
波は比較的穏やかだが、残念ながら局地的に荒れまくっている。

私は今、人生で二度目の船による襲撃を受けている真っ只中だ。

「揺れ、揺れる…!!」
「船内にいた方が良いのではないか?」
「大丈夫で…あいたッ」
「…その辺に掴まっておけ」

襲撃と言っても今回の相手は逃げる方に必死なようで、どうにかこうにかこちらとの距離をとろうとしているのか逃げろーとか舵を切れーとかそんな叫び声が微かに聞こえてくる。
最初に仕掛けてきたのは向こうなのだが、こっちがあの“鷹の目のミホーク”だと気付いてからの方向転換のスピードには脱帽だった。

しかしまぁ何というか、ミホークさんには遠慮しないで欲しいと事前に伝えてあったのだけれど、まさか「丁度いい暇つぶしだ」なんて言って追いかけ始めるとは思わなかった。
せめてこれが七武海の仕事だから、とかそういう理由ならまだしも、やっぱりミホークさんの行動は何処までもマイペースだ。
私は私で、この世界で強く生きると腹を括ったからには前回の襲撃よりもドンと構えているつもりではあるけれどやっぱり遠くの船からの攻撃に対して出来ることは何もなくて、結局こうしてミホークさんのやることを見届けるだけとなってしまった。

「少々揺れるぞ」
「わか、わかりました!!」

もう十分揺れていると思います、という台詞は心の中に留めて、私は今度こそいつも座っている椅子の手摺部分にしがみ付いた。
船の端に佇み背負った黒刀の柄に手を掛ける後姿が、なんと頼もしいことだろう。

「鬼事は終わりだ」

私がしっかり掴まったのをチラリと確認して、ミホークさんはゆったりと構えた黒刀を海に向かって…正確には王下七武海から決死の逃亡を図る巨大な帆船に向けて、その一言と共に振り下ろした。

「…つまらぬ」

どうしてアレで船が斬れるんだろう。
何度見ても到底理解の追い付かない飛ぶ斬撃のようなもので帆船がバキリと割れるのを見届けて、ミホークさんは戻ってきた。
その表情はどこか物足りないとでも言いたげで。
そんなミホークさんと目が合った私は、先程の一撃で起きた大きな揺れにへたり込んだ体勢のまま思わず笑ってしまった。

「大事ないか」
「あ、ありがとうございます」

折角面白い遊びを見つけたのにそれが意外とつまらなくって釈然としない子供のようなその表情に、ついつい頬が緩んでしまう。
普段が無表情なだけに、たまに見えるこういった表情がいやに可愛く見えてしまうのは私だけだろうか。
ミホークさんは襲撃の後で笑っているのを奇妙に思ったんだろう、少し小首を傾げている。けれどすぐに座り込んだままの私に手を差し伸べてくれて、私は少し照れくさいな、なんて思いながらありがたくその手に掴まった。
ミホークさんの一回りも二回りも大きな手が私の手を握り締めて、ぐい、と腕が抜けない程度に引かれる。
本当に凄い力だな、なんて思いながらひょいと立ち上がらせてもらって、私は少しだけ乱れてしまった髪を手ぐしで整えた。

「島が近い」
「……」
「どうした?」
「あ、えっと、寄るところですか?」
「そのつもりでいる」

それでもまだ跳ねた束でもあったのだろうか、さり気なくミホークさんの指が私の髪に触れて、その余りにも自然な動作に一瞬呼吸が止まった気がした。
まるで髪の一本一本に神経が通っているかのように、ミホークさんの指が滑るのを感じてしまうのだ。

「どのくらい停泊しますか?」
「今回は特に決めていない」
「じゃあ、面白い食材がないか探してみましょう!!」
「そうだな(…面白い?)」

不審に思われないようにどうにか平然を装って会話を続ける。
ようやく私の髪から離れたミホークさんの手を思わず目で追ってしまって、そこから意識を離すのに必死で最後の方は何を言っているのか自分でもよく分からなかった。

ただ、何となくミホークさんの手が髪から離れてしまったのが名残惜しいような寂しいような。

…あぁまた、こんなこと考えてどうする。
いつもの定位置に戻るミホークさんを直視できなくて、私は未だ見えない島の影を探すように地平線の彼方を見続けた。

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