S×R 鷹連載 | ナノ


026


一度食材を船に置いて、それからまた買い出しを終えて船に戻る途中だった。それまで何の躊躇いもなく歩を進めていたミホークさんが、突然足を止めたのは。

「…ミホークさん」
「……ごんべ、少し離れていろ」

注意を怠るつもりはなかったのだが、ミホークさんが隣にいるぶん少しだけ気が緩んでいたのかもしれない。
ミホークさんが立ち止ってやっと周囲に意識を集中させてみれば、確かに私でも感じ取れるくらいこちらに殺気を向ける人の気配が感じ取れた。
どうすればいいのか、ここは指示に従うのが正解だろうと窺うように名前を呼べば、す、と伸ばされた腕によって後ろへと促される。殆どの荷物はミホークさんが持っていたから黙ってそれを受け取って、言われた通り民家を背に少しだけ距離をとった。
ミホークさんは立ち止ったまま視線だけを動かして周囲の様子を探っている。
周囲に漂う不穏な空気は、少しずつ動き出しているようだった。

「おれを知らんわけではないだろう」

背中の大刀に手を添えることもせず腕を組んで立ったままのミホークさんではあるけれど、そこには一分の隙もない。
きっと今私が背後から襲いかかったところで、ミホークさんには掠りもしないだろう(そもそもそんなつもりは全くないけれど、これは物の譬えだ)。
普段より少しだけ低めの声で溜息と共に問われた一言に、周りの空気が大きく揺れ動くのを感じた。

「流石は鷹の目だな」
「…誰だ貴様は」
「覚えちゃいねェ、ってか」

現れたのは、ミホークさんとそう変わらない背丈の、いかにも柄の悪ーい男だった。
それはもう見事なまでに、絵に描いたような柄の悪さだ。
時を同じくして、抜き身の剣や銃を携えた数十人の男達が現れる。一体何処に隠れていたのか、その人数は私の予想を遥かに上回っていた。

「生憎とこっちは忘れちゃいねェんだ…テメェに船をたたっ切られた恨みをな!!」

ハッ、と吐き捨てるように言って、ミホークさんの正面に立ったリーダー格らしき男は、腰に差してあった剣を突き付けた。
話の流れから何となくの予想は付いていたけれど、やっぱりというかなんというか、この人達はかつてミホークさんによって夢を断たれてしまった海賊らしい。
ミホークさんが船を真っ二つにする現場を目撃したことのある私からすれば、こうして生きてここにいるだけでも十分凄いと思うのだけど、きっとミホークさんはそれに関しては何とも思ってはいないんだろう。
現に男達の鬼気迫った様子を全く意に介することもなく、さっきとなんら変わらぬ姿勢のまま視線だけを彼らに向けている。

「…ならば、もう一度敗北を味わえば満足か?」
「ッの野郎…!!」

ミホークさんが口を開く直前、ほんの一瞬だけ私の方を見たような気がした。
それは被害が及ばない位置まで下がっていることを確認したのか、それともこれを見届ける意思があるかどうかを確かめるつもりだったのか。ミホークさんの考えていることはミホークさんにしか分からないから確信を持ってそうだとは言い切れないけれど、きっとどちらも正解なんだろう。
私は私で、これがこの世界の常なのだと目を逸らすつもりはなかった。
いくら武芸を嗜んでいたとはいえ、平和な国で育った私にとって、文字通り命のかかった戦いは怖いものだし出来れば避けたい。
けれど、それを生業とするミホークさんと行動を共にするということはそれに向き合う覚悟がなければいけないのだ。
いま自分の腰に差している、人の命を奪うことのできるモノの重さを感じながら。

「相手は一人だ、怯むなよ!!」
「…無駄なことを」

自らを奮い立たせるように大声で吼えて男達がミホークさんに襲い掛かったのは、私が腰の刀の柄をぎゅ、と握り締めたのとほぼ同時だった、ような気がする。

[*←] | [→#]
Back




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -