S×R 鷹連載 | ナノ


023


冷たい風が頬を掠めた気配に目が覚める。
どうやらゆったりと流れる雲を眺めているうちに完全に寝入ってしまったらしい。
目を開けてみれば、椅子の肘かけにしなだれかかる様にしていた身体には毛布が掛かっていた。

「随分と熟睡していたようだな」
「え!?あ、すみません…」
「謝ることはない」

一体どれだけの時間寝こけていたんだろう。
慌てて椅子から立ち上がれば、ミホークさんは帆を畳んでいるところだった。
空は既に藍色に染まり始めていて、そこで初めて、私は船の上で夜を明かすことになるんだと気付いた。

「そろそろ下に降りるぞ」
「……下?」

肌寒さに毛布を握り締めたことに気付いたんだろうか、ちらりと私を見たミホークさんの口から発せられた言葉はしかし、ちょっと意外なものだった。
下って一体なんのことだろう。

「…?船室だが」

どうやら(失礼かもしれないけども)椅子しかないと思っていたこの船にもちゃんと船室はあるらしい。
ミホークさんはこの船で気ままに旅をしているんだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけれど。
今の今まで甲板で過ごしていたものだから船室の存在なんて考えたこともなかった。

毛布を抱えたままミホークさんに付いて行ってみれば、椅子の裏側に船室へ下りる階段があった。
…一度こっち側に回ろうとした時落ちそうになって止められたんだった、そういえば。
そんなこともあったなぁと思い出しながら下りたそこには、決して広いとは言えないけれどミホークさん一人が過ごすのには十分な広さの船室があって、どうやらシャワー室とか簡易キッチンとか、そういったものもちゃんと付いているらしい。
侮るなかれ小型船。
実際こういう船に乗るのはこの船が初めてだから比較対象はないのだけど、この世界ではこれが普通、なのだろうか。

ともあれミホークさんに促されるまま私は船室に足を踏み入れて、ここでやっと自分のやれることを見つけて(といっても簡単な夕飯を作っただけだけど、ミホークさんが“美味い”って言ってくれたから良しとしよう)、当たり前のように同じベッドに引き摺りこまれて。
昨日の晩と同じように背中からミホークさんの腕の中にすっぽりと収まって寝ることになったのだ。

問題は、私が昼寝をしすぎたせいで中々寝付けなかったこと。

「(…ね、寝息が首にあたる…!!!)」

ミホークさんは何を考えているんだろう。
ただスキンシップが好きなだけなのか、私を抱き枕か何かだと思っているのか、それとも。

昨日と違って寝ようと思えば思うほど冴えていく頭はどうにも落ち着かなくなってしまって、それと一緒に五感までもが冴えてしまうものだから、ミホークさんの腕の感触とか呼吸するたびに微かに響く振動とか、そんなのを感じながら結局一睡もできずに朝を迎えることになってしまったのだった。





「…おはようございます」
「あぁ…どうした、目が赤いようだが」
「…昼寝で寝過ぎたみたいであまり眠れませんでした」
「?そうか」
「(言えない、ミホークさんを意識しすぎて眠れませんでしたなんて言えない!!!)」


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