S×R 鷹連載 | ナノ


022


私が刀を腰に差すようになった翌日、ミホークさんと私は島を出た。
必要なものは揃えてあったから、出発の準備は早いもので今や既に大海原の上だ。
ミホークさん曰く次の島に着くまでは数日かかるらしい。
群島と言っても、島と島の距離はまちまちなようだ。

私もこの船と波の揺れに慣れてきたみたいで、今や普通に動き回れている。
慣れって凄い。
動き回ると言ってもこの船はあまり広くはないから、時々立ち上がって背中を伸ばしたり地平線を眺めてみたりという程度なんだけども。

「……ん?」

今日は天気が良いから風が気持ち良かった。
それもあって本日幾度目かの伸びをしていると、空の彼方に見えた黒い点。
鳥…だろうか。

「……え?」

鳥くらいそこらじゅうに飛んでいたから今更気にかける程のものでもないかもしれない。
だけどそれはだんだんとこっちに近付いてきていて、近付くたびにはっきりと見えてくるシルエットには見覚えがあった。

……コウモリ?
こんな真昼間にコウモリ??

「ミホークさん」
「…どうした?」

ミホークさんは座ったまま帽子を目深に被って昼寝の真っ最中だったらしく、少しだけ眠そうな声で返事が返ってきた。
彼は一体どうやってこの船をコントロールしているんだろう。
でも今はそれよりも、真っ直ぐこの船に向かってきている(ように見える)コウモリらしきものの方が気になる。
目を凝らしてみれば、何かを持っているようにも見えるではないか。

「コウモリみたいなのが飛んできます」

……目が合った!!(ような気がする!!!)

ミホークさんはのんびりと構えていて、くいと帽子のつばを持ち上げて私が指さした方向を見ると「…む、」と非常にめんどくさそうに溜息を吐いた。
どうやらミホークさんはあれの正体を知っているらしい。
そうこうしているうちにコウモリ(らしきものではなくてあれは完全にコウモリだ。昼間なのに間違いなくコウモリだ)は船の上で旋回し始めた。
正確には船の上ではなくミホークさんの頭上、が正しいのかもしれない。
ミホークさんが仕方がないとでもいうように腕を持ち上げると、コウモリはそこに手渡すかのように封筒を差し出した。
何かを持っているように見えたのは、ミホークさん宛ての手紙だったようだ。

「手紙…ですか?」
「政府からのものだ」
「コウモリが…手紙を運ぶんですね」
「あぁ」

ミホークさんは心底めんどくさそうに封筒から中身を取り出す。
コウモリはというと、ミホークさんが目を通したのを確認してかすぐさま飛び立っていった。
この世界での不可解現象パート…いくつめだろう、これで。

「正確には会議への召集だが」
「召集?」

私が去っていくコウモリの姿を目で追っていると、ミホークさんは手紙を私に見せるように差し出してきた。
政府からのものを私が読んでしまっても良いのだろうか。
一瞬躊躇してしまうも、まぁミホークさんが良いと言っているんだから良いんだろうと結論付けて手紙を受け取った。

「えっと……会議?で、集まれ…3日後?」

とりあえず読み取れる部分を拾っていくと、どうやら3日後に会議があるから来い、という内容らしい。
手紙から顔を上げてミホークさんに視線を向けると、彼は既に昼寝の体勢に戻っていた。

「ミホークさん、これ…」
「放っておけ」
「え!?」
「応じるつもりはない」
「えぇ!?」

ミホークさんはそう言うと、再び腕と足を組んで顔を下げてしまった。
この手紙はどうすればいいんだろう…困った私はとりあえずそれをポケットの中に突っ込んで、昼寝を再開したミホークさんの隣に腰を下ろした。

ミホークさんは政府相手にもマイペースなのか。
でもこればっかりは私が気にしてもしょうがないことのような気がして、私は背もたれに頭を預けて空を仰いだ。
空ではゆったりと雲が流れていて、風も穏やか。
潮風は身体に悪いと聞いたことがあるけれど、今は不快に感じる要素は全くない。
コウモリによって運ばれてきた政府からの手紙の衝撃も忘れて、流れる雲を眺めていた私の瞼が完全に下がりきってしまうのはそれからすぐのことだった。

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