S×R 鷹連載 | ナノ


020


「…あの、ここは?」
「見ての通りだ」

今日はミホークさんと一緒に町を回った。
レストランで朝食を食べて、昨日のことを覚えていてくれたミホークさんが本屋に連れて行ってくれて。
一人でも大丈夫です立ち読みするだけですと言った私の申し出はさらりと受け流されてしまって、結局二人で本屋に入り簡単な物語の本を2冊ほど買ってもらったり。
その後はまた必要物資を買い足して、朝とは違うレストランで昼食を食べたり。

そうして今ミホークさんと私が立っているのは、明らかに一般人が立ち寄るような場所ではない…どう見ても、武器屋だった。
ミホークさんの刀の手入れに必要なものでもあるんだろうか。

「行くぞ」
「うぇ!?あ、はい」

こういう武器屋なんて入るのも見るのも初めてだから、酒場に入るのとはまた違った緊張感がある。
一歩中に踏み入れれば、そこには樽に刺さった刀に剣に、壁にずらりと並べられた拳銃にライフルに、テーブルに所狭しと置かれたナイフに短剣…
日本では絶対にお目にかかれない光景が広がっていた。

「銃刀法がないとこんなことに…」
「何か言ったか?」
「こんな光景は初めて見ます」

竹刀と防具が並んでいるのを見るのとはわけが違う。
人の命を奪える道具がこんなにも普通に置かれているのは、あっけに取られるのと同時に少し恐ろしさも感じた。

「!!!い、いらっしゃいませ…!!」

街中では気付かない人もいたけれど、ここの店主はミホークさんの正体に気付いたらしい。
何かお探しですか、と身体を固くして尋ねる店主の目は、それでもミホークさんの背負っている黒刀を捉えていた。
恐怖で身がすくんでも、武器商人の性は捨てきれないらしい。

「いや、おれではない」

こいつだ、と。
それまでミホークさんの斜め後ろで店内の様子を窺っていた私が、突然店主の目の前に突き出される(正確にはトン、と背中を押されただけで突き出された訳ではないけれど、まぁいまはそんなことよりも)。

「わたし?」
「適当に見させてもらう」

え、え?と展開についていけない私を余所にミホークさんはスタスタと刀の刺さっている樽の方に向かって歩いていってしまって、店主に思いっきり凝視されていた私はその視線から逃れるようにミホークさんの背中を追った。

「ミホークさん?」
「…念のため、だ」

何のことだろう。
剣の技を持っていることは言ってあるけれど、念のためと言うのはどういう意味なのだろう。

「…ふむ」
「???」

ミホークさんは手を触れることなく沢山ある刀を見ていて、私の疑問に答えてくれそうにない。
訳も分からずミホークさんの動向を窺っていると、鷹のような目がある一点を捉えていた。
それまで腕を組みっぱなしだったミホークさんの右手が伸びる。
その先にあったのは、朱塗りの鞘の日本刀だった。

「……」
「……?」

ミホークさんの手によってスラリと解き放たれた刀身には曇りがなくて、真剣に関しては素人の私でも凄く綺麗な刀だと感じた。
数秒の間刀をじっと見つめたミホークさんは、それを黙って見ていた私へと視線を移す。

「…手を出せ」
「はい」

私は言われた通り右手を差し出した。
そこに、ミホークさんが刀の柄を載せる。
反射的にぎゅっと握ったそれは意外なほどしっくりと馴染んで、毎日のように振っていた竹刀に比べて重たいこともそれほど気にはならなかった。

「貰っていくぞ」
「あ、ああありがとうございました」

私の表情から全てを読み取ったんだろう、ミホークさんは刀を鞘に戻すと店主に小さな袋を投げて出口に向かってしまった。
私も慌てて後を追う。
最後の最後まで私とミホークさんから視線を外さなかった店主はどもりながら礼を言っていたけれど、最後に小さく息を呑む声が聞こえたから…きっとあの袋の中身は…考えない方が良いような気がする。

[*←] | [→#]
Back




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -