S×R 鷹連載 | ナノ


014


店内の喧騒から、少しだけ隔離されたかのような空間。
そこに、ミホークさんと私は座っている。

「えっと、それじゃ…いただきます」
「あぁ」

さっき店員さんが持ってきてくれた料理は美味しそうに湯気を立てているけれど、ミホークさんは相変わらずお酒を飲んでいるだけで手をつけようとはしなかった。

「ミホークさんは食べないんですか?」
「おれはあとでいい」

どうやらミホークさんはまずはお酒を楽しむらしい。
まだいいと返された私は大皿から少し取り分けて、まず一口。
どうやらパエリアのようなものはパエリアで合っていたらしく、魚介の香りが口の中に広がってとても美味しかった。

「ん、美味しいです!」
「そうか」
「食材はちょっと違うみたいですけど…料理はあんまり変わらないですね」
「ほう?」
「昨日今日で町を歩いて気付いたんですけど、私の世界ではあんな巨大な魚は…」

海では巨大な海王類しか見ていなかった上に町ではあまりにも巨大な魚の頭を見たりしていたものだから、この世界の料理がどんなものなのか想像できなかったんだけど。
根本的には同じような料理であることが分かって、なんだかちょっとほっとした。

「あ、取りますよ」
「すまんな」

思いのほか美味しい料理に暫く無言になってしまったけれど、不意にミホークさんが食器に手を伸ばしたのが目に入ったので取り分けて手渡す。
いつの間にか見るからに強そうなお酒のボトルの半分を飲みほしていたミホークさんからは酔っている様子が微塵も感じられなかったけれど、よく考えたら酔っぱらったミホークさんというのも想像できなくて。
そんなところも見てみたいかもしれないなんて思ってしまって、私はパエリアを口に運びながらこっそり笑った。

相変わらず何処となく優雅な物腰で食事するミホークさんと、私。
周囲からはどんな関係に見えるのだろうなんて、柄にもなく考えてしまった。





しかしそんな考えは次の瞬間には一気に吹き飛ぶことになる。
私の真横に、突然ピンク色の羽に包まれた腕が出てきたのだ。

「フフフッ…こいつはおれの奢りだ、お嬢ちゃん」

コトリと私の目の前に置かれたのは、おそらくカクテルなんだろう。
桃色のそれは店内の明かりをうけてゆらゆらと光っていて、得体のしれない(声からして男性の)腕の怪しさを一層際立たせているように感じた。
背後に近寄っていた気配に、仮にも剣道の有段者の私が全く気付くことができなかったのだ。
ミホークさんを見れば彼はとっくに気付いていたようで、鋭い視線が一点に向けられていたけれど。

「…何の用だ」
「フッフッフッ、そう殺気立つなよ」

恐る恐る振り返ってみれば、そこには長身だと思っていたミホークさんを遥かに上回るであろう大きさの、ピンク色の羽を纏った男が立っていた。
短い金髪とその上着とのコントラストが目に痛い(おまけにズボンはオレンジ色ときた)。
その口元は大きな三日月を描いているけれど、一方で色の濃いサングラスの向こう側にある筈の目は全く見えなくて。
どこか底の知れない恐ろしさを感じた。

「あの鷹の目が小娘を船に乗せたって聞いたもんで」
「相変わらず情報が早いことだな」
「ちょうど近くにいたからすっ飛んで来ちまったぜ、フフフフフッ!!」

背後から私の真横に移動した大男はミホークさんと会話をしているけれどその目はずっと私を捉えていて(正確にはそんな気がするってだけだけど)、物凄く居心地が悪い。
一体この人は何なんだろう。
ミホークさんとは、顔見知りのようだけど。

「…用がないなら立ち去れ」
「殺気立つなって言ってるだろうが。フフッ、そんなにこのお嬢ちゃんが大事かよ?」

この人は誰なのかと、そう尋ねることもできなくてミホークさんとピンクの男とを見比べていた私に、ずいと近付く三日月を載せた顔。
思わず後ずさった私を見て面白そうにフフフと笑った男は、まるで観察でもするかのように私をじっと見つめていた。

「フフフッ、なるほど面白れェ」
「…何が言いたい」
「このお嬢ちゃん、ただの小娘じゃねェな」

ピクリと。
それまでただ視線だけで男を制していたミホークさんが、その言葉に僅かに反応した。
ただの小娘じゃない。
この人は、私が異世界からやった来た人間…異海人であることに気が付いてしまったんだろうか。

「詳しくは分からねェが、手に入れたくなる」
「戯言を…」
「フフフッ、理屈じゃねェよ鷹の目。お前も海賊なら分かってるんだろ?」

笑みを張りつけたピンクの男と相変わらず無表情なミホークさんの視線がかち合う。
私はどうする事も出来ずに、ただ膝の上で拳を握りしめた。
騒がしい筈の店内で、私達の周辺だけが異様なまでに静かだった。
ここだけ別の時間が流れているような、そんな雰囲気。
ミホークさん同様、この得体の知れない男もまた只者ではないんだろう。
まだ私が腕を上げる前、自分より遥かに格上の相手と試合した時のような…呑まれる、それよりも圧倒的な空気がひしひしと感じられた。


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どうでもいい補足:ドフラミンゴが持ってきたカクテルはコスモポリタンかピンク・レディのイメージで。

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