S×R 鷹連載 | ナノ


011


海賊というと、私の中のイメージは略奪したりお宝を探してみたり船の上でお酒を飲みながら歌ってみたり…まさに映画や漫画や某巨大テーマパークの某アトラクションで見るような、そんなものだった。
ところが私の隣にいる海賊だと名乗った男性は、商船を見かけても略奪する気配は見せないし宝の地図を持っているわけでもないし歌い出す気配もない。
ただ無駄に優雅に足を組んで座って、たまに現れる海王類とやらを追い払う以外は地平線の彼方を見ているんだかいないんだか…とにかく何を考えているのかよく分からない。

それが、つい数分前まで私が考えていたことだ。

でも今は違う。
やっとというかなんというか、この人が海賊で、しかも凄い海賊だということを実感した。

今私の目の前にはミホークさんが夜を手に立っていて、その向こう側では海賊船が真っ二つに割れていて、私はそれを呆然と眺めている。
ミホークさんは船を横に付けることもしないまま、一瞬ふわりと跳んだかと思えば少し離れた位置に浮かぶ船に向かって一撃を放ったのだ。
それで、この有様。
海王類を相手にしていた時も十分すごかったけど、まさか斬撃で船を一刀両断にするとは。

ことの始まりは本当に数分前の出来事だった。
この辺りは群島が連なっているからもうすぐ次の島が見える筈だと、ミホークさんがそう言って私と目を合わせた時それはやってきた。
それは、いつの間にか目視できる距離まで近づいていた海賊船から飛ばされてくる砲弾だった。
私は全く予期していなかったけれど、ミホークさんは海賊船が近付いていることに気付いていたらしく。
面倒だ、と一言呟いたと思うと立ち上がって、向かってくる砲弾をお馴染みの斬撃で真っ二つに割り海に沈めたのだ。
私は初めて経験する“襲撃”というものに身体が動かなくなってしまって(だっていくら剣道やってようと護身術やってようと砲弾から身を守る術なんて知らないのだ)、ドォンドォンと鳴り響く轟音に耳を塞ぐことしかできなかった。

それでもミホークさんは飛んでくる砲弾を切ったり受け流したり(一体どうやっていたんだろう)次から次へと沈めていって、それによって生じる揺れは私の身体を船から放り出すのには十分なものだったから、必死で船の縁にしがみ付いていた。
そうして海賊船がさらに距離を詰めたのを確認した瞬間、それは真っ二つになって沈み始めたのだ。
ミホークさんの放った一撃によって。

「怪我はないか」

遠くに、脱出用の小型ボートに乗り込む海賊船のクルー達の姿が見える。
船が沈む時には大きな渦が発生すると、タイタ●ックか何かで知った覚えがある…今船から飛び降りている彼らの中には、それに呑み込まれてしまう人もいるんだろう。

「…ごんべ?」
「あ…私は大丈夫、です」

仕掛けてきたのは向こうで、ここはこういう世界なんだと。
思ってはみても、平和な世の中で生きていた私にとってそれは衝撃的な光景だった。
でもミホークさんは、あの船が近付いていることに気付きながら相手が仕掛けてくるまで何もしなかった。
海賊船の拿捕を許可されているという彼が、海賊船を見つけたのに、何も。
それを忘れちゃいけないんだと、私はこちらの様子を窺っているミホークさんと目を合わせた。

「なんとか落ちずに済みましたよ!」
「…そうか」

私がどんな思いで海賊船のクルー達を見ているか分かっていただろうミホークさんは、私が笑ってそう言ったのに驚いてか一瞬だけ目を見開いたけれど。
次の瞬間には小さく目を細めて笑い返してくれた。

[*←] | [→#]
Back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -