S×R 鷹連載 | ナノ


006


合流したミホークさんと私は、街の外れにある宿に移動した。
私を服屋に置いて何処に行っていたのかと思えば、宿を取りに行ってくれていたらしい。
静かな立地の、なかなか風情のある洋館だった。

しかし、またも私は驚愕で固まる羽目になってしまった。
入口をくぐれば高級ホテルのような対応。
お待ちしておりましたと部屋に案内されればそこは最上階。
通されたのはアホみたいに広い部屋。
明らかに、私の世界で言うスウィートルームってやつだ。
案内してくれたおじさんは何故か恐る恐るといった表情でミホークさんの様子を窺っていて、それを見たことで私の中の疑問ははっきりとした形を持った。

ミホークさんて、一体何者だ。

「それでは失礼いたします」

そう言っておじさんが退室しても、私は固まったまま動けなかった。
ぽかん、と部屋の真ん中に配置された立派なソファを見ているようで、頭の中はミホークさんのことでいっぱいだ。
いやいや決して恋する乙女的な意味ではなく、純粋に疑問としてだけども。

「いつまでそこに立っているつもりだ?」
「はぇ!?」

言われて、いつの間にか視界の中のソファにミホークさんが座っていたことに気付く。
そこで初めて、私はミホークさんが帽子を取った姿を確認した。
あぁ、以外と髪短かったんだ。
じゃなくて。

「あ、えーと…広くてびっくりしてました」
「おれは適当でいいと言ったんだがな」

まぁ座れ、と促されて、私はミホークさんの向かい側のソファに腰を下ろす。
あぁなんてフカフカな。
私の部屋にあった安物とは大違いな代物は、私の身体をゆったりと受け止めてくれた。

「……」
「……」

そして沈黙。

どこから取ってきたのか(たぶん備え付けのものだろうけど)ミホークさんはグラス片手にお酒を嗜んでいて、それがまた絵になるもんだから何故かこっちが緊張してしまう。
どうしよう、何を話そう。

「おれに聞きたいことがあるんじゃないか」

ミホークさんはこちらを気にしている素振りは見せなかったけれど、私が時折この人を視界に捉えていることには気付いていたらしい。
言われてハッと顔を上げれば、金色の瞳と目があった。

「聞きたい、こと…」
「お前はまだ、異海人のことしか聞いていないだろう」

何でもいい、聞きたいことがあるなら遠慮なく言え、と。
そう言ってくれたミホークさんの声が優しかったから、私の口は喉の奥で燻っていた疑問を吐き出しはじめた。



「ミホークさんのそれ、刀…ですよね」

まずは、ここにくるまで彼がずっと背負っていた大きな十字架…今はソファの背もたれに立てかけてあるそれを指し、尋ねる。
最初に彼の背を見たときから気になっていたものだ。

「あぁ。珍しいか」

やっぱり、あの黒くて大きな十字架は“武器”だったらしい。
思った通りではあったけれど、こんな風に何の躊躇いもなくサラリと肯定されてしまうと文化の違い(?)を思い知らされたような気分になる。

「そう、ですね。私がいた所ではそういったものを持ち歩くのは法律で禁止されていたので」
「平和なことだな」
「平和ボケもいいとこですよ、私の祖国は戦争を放棄してますから」
「…お前は戦う者の目をしていたが」
「え?」

そんな中唐突に振られた話に、私は一瞬戸惑ってしまった。
あの時、顔を上げたお前はそんな目をしていた。と。
この人が言うあの時とは、海岸で私がここで生きると決意したときのことを指しているのだろうか。
戦う者の目とは、一体何のことなのか。
そこで自分のことながらやっと、彼の言わんとしていることを理解することができた。
あながち間違いでもないのかもしれない。

「私、父が師範だったので小さい頃から剣道をやってたんです」
「剣道、か」
「私の祖国の伝統武芸だったんです。真剣は使ったことないですけど、剣の技と心なら持ってます」
「ほう…やはり戦えるのか」
「こっちで通用するかは分かりませんけど、こんなんでも元いた世界じゃ結構名が知れてたんですよ、私」
「なるほどな(…やはり、面白い)」

ミホークさんは小さく頷くと微かに口端を上げて、それからまた先を促すように私を見ている。
こちらの世界に剣道があるかどうかまでは分からないけれど、どうやら今の説明で納得してもらえたらしい。
だからきっと聞きたいことを促しているんだろうと捉えて、私は再び疑問の続きを口にした。

「この世界じゃ、そうやって刀を持ち歩くのは普通なんですか?」
「おれは海賊だからな」
「へぇ、なるほど海賊ならそりゃ持って…

……………
…………………海賊?」
「海賊だ」

はて。

海賊とはあれだろうか。
船に乗ってラム酒を飲んで略奪して自由気ままに暮らすというあれだろうか(私の頭の中には今、某有名俳優が主演しているカリブの海賊映画が再生されている)。
はたまた日本史で習った方の…えーと、倭寇だか何だかっていうアレだろうか。
どちらにしても、目の前で優雅に足を組みグラスを傾けるダンディズム(これは我ながら中々に的を射た表現だと思う)とは結びつかないのだがそれはともかく。

……海賊?

「え、ちょ…かいぞ、えぇぇ!!!!?」
「なんだ、珍しいのか」

この世界では珍しくないとでも言うのだろうか。
元の世界でも昔はそこらじゅうにいたのかもしれないけれど、私の生きた時代じゃ海賊なんてそうそう出会えるものではなかった。
どっかの海にはハイテクな海賊がいるとかって話を聞いたことはあるけれど、たったそれだけ。
つまりアレだ。
私にとって海賊なんてものは、実在するにしたってそれこそ別世界の存在だったのだ。

あまりにも平然と言ってのけるミホークさんは、とても嘘を吐いているようには見えない。
そんなミホークさんが普通に街中を歩いていた。
だとしたら、これは…今更かもしれないけれど、私はもしかしてとんでもなく現実離れした世界に流されてしまったんじゃなかろうか。

「海賊…私…知らない…です」

あっけにとられて片言になってしまった私に、ミホークさんはこの世界の状勢…世界政府と三大勢力についてちょっとめんどくさそうに説明してくれた。

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