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薄暗くて埃っぽくて何とも言えない異臭が鼻を掠める…
そこは今はもう使用されることのない寂れた『地下倉庫』。
「…最悪だ」
瓦礫に潰された携帯電話の変わり果てた姿に、俺は深くため息をついた。
***
「まぁまぁ土方さん、そう落ち込みなさんな。携帯なんてまた買えばいいじゃん」
「ウルセェェ!落ち込んでなんかいねーよ!怒ってんだよ俺は!!」
「え、誰に?」
「てめーにだよ!!」
隣に腰掛ける亜麻色を瞳孔かっ開いて怒鳴り付けるも、その横顔は微塵も動じることなく飄々としていて。
「ったく散々でさァ。一体誰のせいでこんなことに」
「だからてめーのせいだろーが!」
「あて」
ぺしんと丸い頭を叩くと総悟は少し不満げに唇を尖らせて此方を見た。
…そう、この困った事態の原因は全て総悟にあるのだ。
「…わかるよな、総悟。お前があの時あんなもん投げるから、こんなことになっちまったんだぞ…」
ある古い資料を探し回ってまさかとは思い足を運んだ地下倉庫。梯子を登って古臭い本が並んだ大棚を物色する俺に、コイツときたらどっから持って来たのか…バレーボールを思い切りぶち当てて来やがった。不意の出来事にバランスを崩した俺は、梯子諸とも後ろへ倒れて…瞬間、積み上げられていた荷物の山はガラガラと大きな音を立てて崩れ落ち…。
「すげーやこりゃ。扉見事に塞いじまってやすぜ。困りましたねィ」
まるで他人事のように言う総悟に俺はげんなりとした気持ちで頭を垂れる。それから隊服の内ポケットを探り、募る苛立ちを押さえようと取り出したライターで煙草に火を着けた。
「あー…取り敢えず…アレだ。連絡しろ。山崎辺りに。な」
流石にこの瓦礫の山を退かすのは無理だ。古い通信機やらなんやらの精密機械。その上倒れた大棚が扉を完全に塞いじまってる。(しかしよく怪我しなかったもんだな…)
仕方ねェ、ここは手っ取り早く外から扉をぶっ壊させて…
「土方さん」
「あ、何だ?」
「ありやせん」
「は?」
「携帯。持ってねェ」
「………………」
……まじで?
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