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あの日…


鳴り止まない雨の中、俺はあの人に逢ったんだ――…。




***





「わりい、総悟。急に仕事ができてしまってな…」


土方さんの部屋の中、机から向き直った土方さんは両手を顔の前で合わせて申し訳なさそうな顔をした。


「いーですよもう…。そんな顔しねーでくだせェ」

「いや、しかしだな…。せっかくその、お前と…久しぶりのデート…」

「デートとかアンタの口から出さんでくだせェ。気色ワリィ」

「ひどくね」


…そう、この日俺たちはデートの約束をしていた。
忙しいここ最近久しぶりに休みが合うってんで、町でもブラついてなんか食おーぜって話だった。

だけどたった今、それがオジャンになっちまったワケだ。

「本当にワリィ。総悟…。今日中に片付けなきゃなんねぇ書類でな…」

「いいですってば。アンタのドタキャンはいつものことだしもう慣れっこでさァ」

「………」

俺が軽く言った言葉にまた土方さんが黙り込むもんだから、何だか逆に気ィ遣っちまう。

「…あ、アンタあれ観たいって言ってたでしょ。ま、ま…まよりーんナントカ…。あれ、借りてきてやりまさぁ」

「え?何をいきなり」

「ちょーどつた屋が今100円でしょう。ザキが言ってやした。天気もあんま良くねェみたいだし…。それ終わったら一緒に見やしょう」

「……いや、でもお前は」

「…いいでしょ。ドタキャンしたんだから。それくらい付き合いなせェよ」

だから夜までにはその机の上の書類全部、片付けといてくださいよ。

俺がそう言うと土方さんは暫くしてフッと柔らかく笑った。

「ありがとな、総悟」

優しげな声音と共に土方さんの端整な顔が近づいてくる。
唇と唇が触れ合って、だけどそれは直ぐに離れてしまって。

「…じゃあ、行ってきやす」

「なんだもう行くのか。傘持ってけよ。雨降るかもしらねぇから」

「へーい…」

適当に返事はしておいたけど、本当は土方さんの言葉なんざもう耳に届いてなかった。

「車に気を付けんだぞ」

「へいへい」

俺は振り返らずひらりと手を上げて返事すると土方さんの部屋を出た。

「あーあ…」

見上げると空はどんより暗く分厚い雲で覆われていた。今にも雨が降りそうだ。

(雨…降るかな…どうだろう)

回廊をのろのろ歩きながら空を見上げて考える。

やっぱ降りそうだな…。傘要るかな。でも持ってくのだりィし…。つた屋ぐらいならそう遠くねぇしなんとか…

フゥ、とまた溜め息をひとつ。なんかこの天気のせいなのかなぁ…気分まで落ちてくるや。

「せっかくの休みだったのになァ…」

けっこう楽しみにしてたのにな…あーあ。

「つまんねえ…」

俺は誰にも聞こえないくらいの声で、ぽつりと呟いた。






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