2,



「…嫌な夢を見たんでさ」



幾分か落ち着いてきた頃、胸に抱かれた総悟が俺に身は預けたままに、ポツリと呟いた。

「どんな夢…なんだ?」

俺は総悟の頭を撫でる手を止め、出来る限りに柔らかく訊ねた。
すると総悟は俺の胸に添えた小さな手で着流しをきゅっと掴み、それから…小さな声で思い返すように語り始めた。

「とても、こわい夢……。俺のまわりから…一人ずつ居なくなるんでさ…。父ちゃんも母ちゃんも、姉上だって……」

「…………」

「俺のまわりから大切なモンが減ってく…。近藤さんも山崎も皆も、…アンタだって……。みんな…俺を置いてく…。何もない真っ暗な世界、俺は一人ぼっちで…」

「……、総悟」

「みんな…俺を置いて…いなくなっちまう。どんなに呼んだって、誰も振り向いてくれない…。俺の声は届かない…。だから、だから俺っ…俺は…!」

「っ、総悟!」

たまらず俺は再び取り乱し始めた総悟の両手首を掴み、自分の胸から引き剥がした。
びくりと怯えて体を震わす総悟の唇に、今度は対照的に優しく唇を落とした。

「んっ…」

ちゅ、と音を立てて直ぐに離れた二つの唇。
それから真っ直ぐに総悟を見つめると、総悟も微かに赤く潤んだ瞳を俺に向けた。

「…泣き止めよ。スゲー顔になってんぞ」

「んぅ、」

頬をぽろりと伝う涙を指で拭ってやる。
ああ、ほらこっちからも…そうやってまた頬に手を延ばしたら、総悟がそっと瞼を閉じた。
俺は延ばしていた手で総悟の顎を軽く持ち上げ、その愛らしい唇に再び口付ける。

「は、…っ」

「ん、っ…ぁ…」

唇を離しては見つめ合い、俺たちは互いに引き寄せられるようにキスを繰り返した。何度も角度を変えたキスに、唇が触れあうリップ音だけが静かな部屋に響く。
次第に深まるキスに、浅く弾む呼吸…気付けば俺たちは絡み合って布団に倒れ込んでいた。

「っ、ふ……はぁっ…ひじか…さん…」

「………あ、悪い。つい…」

勢い剰ってしまった。

我に返った俺が総悟の体から離れようとすると、総悟にグイッと腕を引かれた。そのまま総悟の手は俺の腕を自分の左胸に導き、触れさせた。

「いいんでさ…。アンタに触れられると、安心する…」

総悟の左胸から俺の掌に、トクトクと生きている鼓動が伝わる。

「だからもっと、俺を愛してくだせぇ……」

そう言って力なく微笑む総悟に、アイツの面影が見えた気がして。
俺は胸を締め付けられる思いを感じながら、総悟の首筋にきつく吸い付いた。


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