あれ、消しゴムがない。さっきまで使ってたのにどこやった。筆箱の中にもノートの近くにも見当たらない。教科書を持ち上げると、その下に潜んでいた消しゴムが机から落下した。反射的に手を伸ばすも空中キャッチは叶わず、角の削れた消しゴムは転がり転がって何と亜風炉の足元で停止した。どうする。普通ならちょっと声を掛けて取らせてもらうが、相手が亜風炉だとどうも妙にそうしたくない。よし、気付かれないように拾ってしまおう!決心してそっと体を傾けるがまあそんなこと出来るはずもなく、私の動きを目敏く見つけた亜風炉は、気持ち悪いものを見るような目つきで机の距離をさらに離したが、目的を理解したらしくにやりと笑ってマイ消しゴムを摘み上げた。

「拾って頂きありがとうございます、ということで返してください」
「返してほしい?」

そりゃそうだろうがよ、と言いかけて口を噤む。あろうことか亜風炉は消しゴムを持ったまま腕を窓の外に出したのだ。憎たらしい笑顔はそのままで嘯く。

「どうしようかな」

この野郎…。右手のシャーペンがピキリと音を立てる。しかしこのアホに時間を費やしている間にも、黒板にチョークの文字がどんどん増えているのだ。仕方ないので予備にと入れておいた消しゴムのビニールを破った。

「新しい物を出すのかい」
「誰かさんが返してくれそうにないんでね」
「なら、これはもういらないね」
「は?」

まさか。素早く亜風炉の方を向いた瞬間、奴は私の消しゴムを摘んだ指を何の躊躇いもなく開き…あ、あーあ…。消しゴムは一瞬で視界から消えた。どや顔うぜえ…人の物を何だと思ってんだこいつマジうぜえ…!
あまりにも腹立たしかったので授業終了と同時に物凄い速度で亜風炉の消しゴムを奪い窓の外にシュートしてやった。ちなみにその消しゴムはたまたま中庭を散歩していたヘラクレスだか何だか言う人に当たったらしい。普通にごめん。


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