七松先輩に声を掛けられた瞬間、組む相手が先輩だと分かった時、何事もなかったかのような態度に対して。私は、先輩に一体何を期待していた?

演習の開始を告げる号令と共に各組は一斉に散った。私達も予め決めた作戦通り、高い位置に陣取り全体の様子を窺う。先輩はもちろん、幸い私も体術は得意なので、ひたすらに他の組の札を奪っていくつもりだ。手の中の苦無をぎゅっと握りしめた。

驚くことに七松先輩と私の相性は抜群で、出会う組から次々と札を拝借していき、一刻も経った頃には懐は札で一杯だった。「まだいけるか?」問いかけてくる先輩の声に頷く。本当は限界に近いが、まだまだ余裕の表情を見せる先輩に休憩を申し出ることなど出来るはずもない。残る人数も少なくなってきた今が一番重要な局面なのだ。

「よし、じゃあ次はあいつらにしよう」

先輩の指先の延長上、見るからに隠れる場所を探している二人組に狙いを定めた。気付かれないように静かに、しかし確実に距離を詰めていく。息を潜め、目と目を交わし、足を踏み出したその時、不穏な音が鳴った。

「罠か!」

背中を向けていたはずの対象が振りむく。その顔は笑顔。唇を強く噛み締める私の足が地上に開いた虚空に飲み込まれる。

「名前!何してるんだ!」

七松先輩が叫んだ。それもそのはず、普段の私ならこんな穴など軽く飛んで回避するだろうが、蓄積された疲労の影響は大きく、焦りも相まって身体を上手く動かすことが出来ない。どんどん空が遠くなっていく。伸ばした腕が、重い。重力に従って上半身が傾き、頭に強い衝撃を感じた。

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