「私もうどうしたらいいのか分からない」

平は嘆く私にそっと茶を出してくれた。
長ったらしい自慢話で敬遠されがちであるため、生来はなかなかの世話焼きであるということを知る者は少ない。今日も、悔しいが私より明晰な頭脳を持ち、七松先輩と委員会活動で接する機会の多い平なら何かよい意見をくれるのではないかと思い、こうして人目に付きにくい夜を狙って忍たま長屋にまで忍び込んできたわけだ。同室の綾部喜八郎は穴掘りに出かけたらしい。こんな時間まで御苦労なことで。

「縁談の話か?まだ見合いの段階だという話じゃないか。正式に決まったわけではないのだろう」
「時間の問題よ。向こうが是非にって言ってるみたいだし、それ聞いたうちの両親も大喜び。こんなじゃじゃ馬もらってくれてありがたいんだってさ。それに…」
「それに?」

問いかけて来る平に言葉を詰まらせた。ここで彼に先日の出来事を言ってしまえば、七松先輩の好意を現実として受け止めなければならない気がする。しかし、今私を悩ませている最大の要因であるこのことを伝えなければ、的確な意見を受けることは叶わないだろう。そう判断し、ためらいながらも口を開く。

「…七松先輩が、私のこと好きだって」
「そうか」
「あれ、あんまり驚かないのね」
「まあな」

意外な反応に目を丸くする。私は茶を盛大に噴き出すくらいの反応を期待していたというのに。「お前は私を何だと思っている」お笑い要員…と正直に言ってしまえばきっと怒って出て行ってしまうので大人しく口を噤む。平は黙り込んだ私をちらりと見、諭すように呟いた。

「お前がどう思っているかは知らないが、七松先輩はよい方だぞ」

そう言って湯飲みを傾ける平に、私は何も言えずに倣う。折角の美味しい茶が少し温く感じられた。

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