雷蔵も名前も私を欲しがっているようだけれど残念、私の心は私だけのものだから誰にもあげられないんだ。
二人で長屋までの廊下を音もなく歩く。角を曲がり、名前から見えなくなったところで立ち止まって袖を引けば雷蔵はすぐに振り向いた。首を傾げ私を見つめる雷蔵の瞳には自分が映っている。

「ねえ、雷蔵は私が好き?」
「どうしたの、急に」
「いいから、雷蔵は私が好きか嫌いか、答えておくれ」

雷蔵は困った顔をした。質問の意図が掴めないのだろう。友情か恋愛か、両者の間には大きな差がある。無理をして取り繕う必要はないのに。何故なら私は君の気持ちなんてお見通し、百も承知の上。綺麗な部分も、君が必死に隠そうとしていた愛や恋にありがちな醜い側面も、全部全部知っているんだよ。雷蔵は顎に手を当てて逡巡した後、私の目を見て微笑んだ。

「そりゃあ勿論、僕は三郎が好きだよ」
「そうか、嬉しいなあ。私も好きだよ」

にっこり笑顔で返せば、雷蔵は喜色を露わにする。私の口はそのまま言葉を紡ぐのをやめない。

「雷蔵も名前も、両方好きだよ」

雷蔵の顔はどんどん僅かな落胆の色に染まっていった。私は胸の内でほくそ笑む。

「ほら、早くしないと鐘が鳴ってしまう」

私がおもむろに握った手を雷蔵は振り払わない。いや、振り払えないのだろうか。走り出しながら引っ張った雷蔵の体は思ったほど重くはなかった。
どうだい、私は非道い男だろう。それでもまだ君達、私のことを好きでいられるのかい?まあ頼まれたって、欲張りな私は、二人の心を返してあげるつもりはないけれど。


100329
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