三郎の声がした途端にさっきまでの醜い表情は何処へやら、世間一般では可愛いと評されるであろう声を上げる名字名前に僕は冷ややかな視線を送ることしかできない。女とはかくも狡猾で厭らしい生き物だっただろうか。いや、それはこの女に限ったことなのだと思う。生憎僕はその計算され尽くした表情筋と声帯の動きには全く魅力を感じないのだ。

「雷蔵も名前も私を除け者にして、何を話していたんだい」
「ちょっとした世間話よ。ね、雷蔵」
「うん、そうだよ」
「二人は本当に仲がいいなあ、妬けてしまうよ」

それは僕に、それとも名前に。わざわざ答えを問い質すほど愚かではない。舌打ちをしてしまいそうなのを押さえた。この女など金を貰ったって要らない。

「ところで三郎はどうしたの。何か用?」
「用も何も、もうすぐ昼休みが終わるから迎えに来たというのに、そんなに楽しかったのかい、その世間話とやらは」
「まさか!」

最悪だよ。吐き捨てたくなる。それは名前も同じようで、隠しきれない嫌悪を瞳の奥に滲ませて僕を見ていた。今日初めて気が合ったね。にこりと微笑むと刀のように鋭い視線で睨まれた。おお怖い。ここには三郎もいるというのに、そんな顔をしていいのかい。しかし彼女は決して三郎から見えないところで、気付かれないように巧く表情を戻すのだ。本当に狡賢い。

「授業に遅れるほどのものでもないよ。さあ、行こうか」
「ああ。じゃあな、名前」
「ええ、またね、三郎」

と、雷蔵。
付け加えられた僕の名前は呪詛でも含められたのではないかと感じるほど重い。しかし所詮はその程度。現に今だって、君は並んで歩く僕と三郎の後ろ姿を見送るしかないんだろう?悔しがる姿が目に浮かんでとても愉快だ。背後から苦無を引き抜く音がした。


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