※全体的に雷蔵→三郎


「三郎はあんたのことなんてどうとも思っちゃいないのよ。あんたと行動を共にするのは偶々同じ学園に同じ学年として入学し同じ組に振り分けられ同じ部屋になったから、それだけのことであっていわば偶然の産物、他意はないのよ、この偶然がなければあんたは三郎に知り合いになることは愚か見向きもされなかったわ。あんたはただそれだけの存在なのよ」
「確かにそうかもしれない、でも」

目の前の表情はぴくりとも変わらないまま、眼球だけが横目で私を見、三郎と同じ形の薄い唇がゆっくりと動かされる。

「三郎が使うのは僕の顔だ」

不破雷蔵は口の両端を釣り上げた。こいつの笑い方は年々三郎に似てくる。否、不破雷蔵の姿を真似ているのは三郎なのだからその言い方はおかしいのかもしれないが、こいつは私に対しては意図的に三郎の、人を小馬鹿にして嘲笑うかのような笑い顔を模倣している節があるのだ。その瞳はありありと優越感を滲ませている。どうだ、お前には出来ないだろう。私は憎らしくて堪らなくなる。懐に手を入れて指に触れた瞬間投げた苦無は一直線上を進み綺麗に的の真ん中に突き刺さった。「わあ、凄いね」心無い賞賛は嫌味でしかない。もう一本投げようと再び手を入れた時、後ろから声を掛けられた。

「雷蔵、名前」

振り向くと、今まで話していたものとそっくりそのままの顔が手を振っていた。顔の造作は寸分違わず同じはずなのに愛しい気持ちが湧いてくるのは彼が鉢屋三郎であるからに他ならない。私より先に不破雷蔵の名前を呼んだことが気に入らないけれど、三郎が私の名を呼んでくれた、その事実だけで私の胸は喜びで満たされる。三郎の前では不破雷蔵など有象無象に成り下がるのだ。私は瞬時に恋を抱く少女の顔になる。変わり身とも言うべき態度に隣のどうでもいい人間がいくら軽蔑の眼差しを向けてこようとも意に介すことはない。私は鉢屋三郎の愛を、この男にだけは決して渡したくないのだ。


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