どこの造形も美しいこの男は爪の先までも実によく出来ている。細くて長い指は羨ましくなるほどで、だからと言って白魚のような、と形容するほど女性らしくもない。見目も言動も自分のステージとは違いすぎて、嫉妬とかそういう感情すら湧かないのにはもう慣れてしまった。

「そんなに僕の手が好きかい?」
「うん、好き」

浮き出た筋を軽くなぞれば、くすぐったそうに身を捩った。しかし手を引こうとはしないので、少しいい気分になりながら弄り続けていると、突如握っていた指に力が籠った。そろそろ放置されるのに飽きてしまったようだ。

「手、だけ?」
「そんな訳ないでしょ。分かってる癖に」
「うん。分かってるんだけどつい、ねえ」

「妬いちゃうなあ」

その響きが何とも拗ねた子どものような声色で笑えた。「自分の手なのに?」膝の上に置いてあった手を口元まで持ち上げ、薬指に音を立ててキスをする。「誘ってるの?」「さあ?」「ふうん、じゃあ好きにさせてもらおうかな」顔が近付いてきたので瞳を閉じる。しかし唇に熱が触れることはなく、不思議に思いながらも目を開けると、ジーノは睫毛が触れそうなギリギリの距離で微笑んでいた。

「手だけじゃなくて、僕の全てを見ておくれよ」

よくもそんな恥ずかしい台詞を言えるよなあ、と呆れてしまうけれど、安っぽい映画のような言葉が似合うこの男の全てに心底惚れてしまっているのだから仕方がない。返事の代わりに、首に腕を回すことにした。


「まつげ」様提出
110901
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