目を凝らさなければ気付くことすら出来ないほどの微かで弱々しい光が、藍と橙のグラデーションを横断した。嗚呼、また一つ、星が死にました。


「本当に好きだったよ」と彼は独り言のように呟いた。美しく笑っている白磁の頬とは裏腹に指先は小刻みに震えていて、それに気付いてしまった私の喉は乾いた呼吸音を漏らすしかなかった。私を見つめる、低い角度から光を取り込んだピジョンブラッドの瞳の穏やかさが、恐ろしくて悲しい。「私も、好きだった」彼の指が髪を滑る。愛という大きく偉大な言葉を目の前に、私達は酷く幼稚で、無力だ。

過剰に摂取した水分が徐々に吸収され血液の一部として体中を巡っていくのと同じように、今にも溢れてしまいそうなこの気持ちだってじっと耐えていればじわじわ私の中に取り込まれていき、やがて私を構成する要素の一つとなるだろう。私は心から亜風炉照美という人間が好きだったのだと、誇らしさと、懐かしさと、ほんの少しの切なさと共に、こんなこともあったねといつか誰かに笑って話すことが出来る。思い出になる日が来るのだ。だから「さよなら」。


白い息が斜陽に溶けた。瞳を閉じて私は両手を握り締める。
お願いです、明日はどうか、彼が笑顔でいられますように。


「世界が終わる夜に」様提出
101123
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