真上から降り注ぐ日差しの中、見慣れた海沿いの道を歩いていたら、すらりとしたお兄さんが前方から歩いて来た。こんな田舎には似つかわしくない派手なその色合いに、ちょっと怖くなってお気に入りの日傘を傾ける。足を動かす速度を速めて一気に通り過ぎてしまおうとしたら、擦れ違いざまに声を掛けられて思わず肩が跳ね上がった。
「おい、名字」
その声が聞いたことのあるものだったから、恐る恐る伏せ気味だった顔を上げてみると、なんと平古場だった。「無視すんなよ」と笑う顔は一昨日見た顔と同じだったけど、髪の毛の色が、それはそれは明るい金に変わっていた。外国の人みたいな色だ。見事にカラーリングされた長めの髪が吹き付ける潮風にバッサバッサなびくのがライオンみたいだったから思わず「たてがみ?」と呟くとデコピンされた。
「え、染めたの?」
「うん」
「なんで」
「なんとなく」
「いつ」
「さっき」
「なんで」
「それ二回目。ていうかちゃんとあびれ」
「だって」
絶対先生にうるさく言われるよ、とか風紀委員なのに、だとか言いたいことはたくさんあったが、衝撃を受けすぎた私は目を丸くしたまま口を半開きにした。染めるついでにストパーも当てたのだろうか、猫っ毛っぽかった髪はすっかりまっすぐに落ち着いている。当の本人は先っちょを指に巻き付けながら自慢げに「似合う?」なんて尋ねてきたが、私は眉尻を下げた。
「残念」
「何がよ」
「平古場の髪好きだったのに」
比較的色素が薄めの髪はふわふわとはいかないまでも柔らかい感じで、午後の授業には大抵うつ伏せて寝ている平古場に窓から吹き込む風が当たって揺れているのが後ろの席の私にはいつも見えていた。こんなに金色だったら、とても眩しくて目がチカチカしそうだ。平古場はちょっと驚いた顔をして「そうか」と笑った。何だかそれがとても悲しそうだったので慌てて「でも似合ってる」と付け加えたらぱっと今度は嬉しそうに笑った。ほっとした。
「金は大変だよ」
「ん?」
「手入れ。平古場地毛が茶色いから放ってたら本当にプリンになっちゃうね」
楽しみだなあ、と笑ったらまたデコピンされた。落としきれなかった薬品の臭いが潮の臭いと混じってツーンと鼻に染みた。
101002