※成長


障子に掛けた指を素早く左右に引き払えば、スパン!と景気のよい音が会計室に響き渡った。

「何で作法委員会の予算がこんなに削減されなくちゃいけないのよ!」

呆気にとられた様子で私を見つめる何組かの瞳は無視し、文机に目を落としたまま算盤を弾き続ける人物の鼻先に帳簿を突き付ける。

「最近化粧道具が値上がりして唯でさえカツカツなのに、こんな必要最低限の経費だけでやっていける訳ないじゃない!」

団蔵は手の動きを止め目の前で揺れる帳簿を鬱陶しそうに払った。

「お前なあ…兵太夫のカラクリ製作費まで計上出来るわけねえだろ」
「カラクリは作法室警備のために必要不可欠なの」
「盗まれて困る物があるわけでも無し」
「首人形一つがいくらするか知らない訳ないわよねえ?」
「扉の鍵一つで充分だ」
「念には念を。何かあってからじゃ遅いのよ!だから予算を」
「とにかく!」

団蔵はこれ以上の会話は無駄だというように声を荒げた。

「余計な予算はビタ一文出せねえからな」

鋭い瞳の下にうっすら出来た隈が何代か前の会計委員長を彷彿とさせて思わず身震いをした。ずらりと並ぶピカピカに磨かれた十キロ算盤は団蔵が確実にあのギンギンを受け継いでいるということを物語っている。どうせ受け継ぐなら田村先輩の自惚れの方がまだよかった、と思いながら渋々受け取った予算書はミミズの這い回ったような字で真っ赤に訂正されていた。

「次はもっとマシな言い訳考えて来いよ」
「…予算会議を楽しみにしておくことね」
「望むところだ」

踵を返す私に向けられた自信有り気な眼差しが癪に障ったので私達の遣り取りを身動き一つせず黙って見つめていた後輩達を含め室内全体をぐるっと睨みつければ、何人かが肩をびくつかせ顔を伏せた。そのことに多少気をよくしながらも来た時と同じくらい大きな音を立てて障子を閉める。どうか君たちは団蔵…いや、潮江先輩のようになってくれるなよ。六年間ですっかり逞しくなってしまった級友の不敵な笑みを思い浮かべ溜息を付いた。

その後作法室へ戻り一部始終を報告すると、喜々として予算合戦用特製カラクリの製作を開始した兵太夫に立花先輩の面影を見た私は軽い眩暈を感じたのであった。


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