05

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何か新しい物を学ぶ事は基本的に難しい。魔法に関してもそれは例に漏れない。

親からそう言われて育った俺は、両親共々から二人が学生時代に使っていた教科書を読み物として小さな頃から読んでいた。俺は魔法に関する学問と相性が良いらしく、すぐにのめり込んだ。
気付くと俺は入学前からあらゆる知識を蓄え、魔法を行使するような物以外は家でさせて貰っていた。魔法薬学然り、呪文学然り、時には薬草学の書物に載っていた植物採取の同行を許された事もあった。

しかし、これは普通ではないらしい。入学する前の夏、父上からの言葉でそれを知った。

「好きな物を好きなだけ学ぶ事は構やしない。だがな、時と場合を考えて自身の学力を隠す事が必要な事もある」

いつの間にか俺は両親の教科書を読破していた。まだ十にも満たない俺がそんな事をしてしまい、父上も母上も大層驚かれたらしい。

幼い頃から(今も充分幼いが)一緒につるんでいたドラコ。彼の父親は俺の父上の上司にあたる。
俺がドラコの成績より上を取るような事が起きれば面倒な事になる。俺も、父上も、面倒な事が大嫌いなのだ。

だから俺は手加減する事にした。
他の同年代と同じように板書を写すし、学生生活の中で初めて見た単語などはわざと調べるようにした。こうすれば『他の子よりも少しだけ理解が早い生徒』としか見られないだろう。事実、俺よりも成績が良さそうな生徒として認識されているのはドラコだ。





「素晴らしい! スリザリンに一点!」

基本的な知識問題についての質問に完璧な答えを返したドラコ。妖精の魔法を教えるフリットウィック先生がスリザリンに点を追加した。その言葉を聞いたドラコは満足そうに席に座る。

「ヴィンセントも挙手すれば良いのに。これくらいは知っていただろう?」

上機嫌に話し掛けてきたドラコに、俺は困ったような笑みを見せて口を開いた。

「いや、喉まで出掛かっていたんだが後一歩で思い出せなかったんだ」

「ああ、よくある事だな」

丁度授業終了のベルが鳴り、クラス中から一斉に物を片付ける音が響く。物音に紛れて「次の授業までに今日やった章のまとめをするように!」と言う先生の声が聞こえる。それをしっかりと記憶した後、ドラコとグレゴリーの後ろから教室を出た。

「次の授業はなんだっけ?」

「魔法薬学。スネイプ先生だな」

振り返りながら聞いてくるドラコの質問に澱みなく答えれば、彼の表情が一層明るくなった。

「スネイプ先生! あの先生の授業は前から楽しみだったんだ!」

「……なんで?」

荷物を抱えなおしながらグレゴリーが問うた。因みに、彼の成績は正直思わしくない。唯一良いとされるのは薬草学で、理由を聞けば「美味しそうなのないかなぁ、と」と返ってきた。
試験前にはきっと俺やドラコがつきっきりで面倒を見る事になるだろう。

「スリザリンの寮監で、彼もスリザリンの出だそうだ。父上の後輩と伺っているから」

「ふぅん」

という事は父上の後輩でもあるのか。俺の父上はドラコの父親の部下であると共に同級生でもある。

「それに僕自身が魔法薬学を得意とするからね。父上が連れて行ってくれる店でよく鍋を掻き混ぜるのを見ていたし」

ニコニコと笑うドラコにグレゴリーが「そうなんだ」と言って押し黙った。
……まさかとは思うが、でも一応聞いておこう。

「……グレゴリー、まさかとは思うが薬を作る過程で材料を食べようとか思うなよ」

「……不味そうなら食べない」

「いや、絶対不味いから。いろんな意味で不味いからな?」

「……」

沈黙してしまったグレゴリーからドラコに視線を移す。彼は肩を竦めて見せて歩みを進めた。その目が「仕方ないから二人で摘み食いしないか監視しよう」と物語っていた。



グレゴリーに関してドラコは面倒見の良い。
嫌いなわけではない、そんな事ありはしない。ドラコやグレゴリーとは何時までも良い友人としていたい。
だから俺は自分を少し偽る事にしたのだ。

『能ある鷹は爪を隠す』と東洋の諺では言うらしいが、そんなんじゃない。俺は単なる面倒くさがりなのだ。この関係性を崩したくないが為に嘘をつく、ただの怖がりなのだ。
それをヒトは傲慢と呼ぶのかもしれないが、俺は別に構わない。




魔法薬学の授業では滅多に見られない物が見られた。
先生による生徒いびりもそうだが、それよりも驚いた事がある。合同で一緒に授業を行っていたグリフィンドールの誰かが盛大に失敗したらしい。今回調合する、おできを治す薬は比較的簡単なものなのだが。

床一面に失敗作の薬品が広がり、反応が一歩遅れがちのグレゴリーを椅子の上に引っ張り上げる羽目になった。
隣ではドラコが盛大に笑わないよう肩を震わせて堪えている。先生が怒鳴っている隣で馬鹿笑いをするのは賢明でないと考えての事だろう。

「さあ、他の者は作業を続けたまえ」

失敗した生徒が付き添いと教室を出た後、すかさずグリフィンドールから(というかポッターから)点を引いたスネイプ先生がそう言った。俺たちは慌てて作業に戻った。
手早く最後の過程を終えて、俺は自分の提出用の瓶に薬を詰める。ペアを組んでいたグレゴリーの分も詰めてやれば「おぉ……」という気の抜けた感嘆の声が聞こえた。

「お前なあ、材料に手を出すなとは言ったけどそれは作業するなって意味じゃないぞ?」

「ん、知ってた」

「……」

振り返りながら言った俺の言葉に、グレゴリーはあっけからんと答える。流石にこれにはこちらが黙るしかない。

「ありがとう、ヴィンセント」

「……おう」

一言感謝の言葉を告げられて許してしまう自分もどうかと思う。





まあ許すのはコイツ等だけなんだろうけど




(二人ともできたのか。一緒に提出しよう)
(そっちのペアはどうしたんだ?)
(瓶詰めが遅いから置いてきた)
(……ドラコらしい)
面倒臭がりのヴィンセントが面倒がらずに面倒を見るのはこの二人だけって話が書きたかったんです。


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