04

-----------------------

次の日の早朝。俺たちは思いがけず、昨夜のMiss.オットーの言葉を思い出す事になった。

― ガタガタガタガタガタガタガタガタ! ―

「ぅわ!」

「なんだ!?」

「どうした!」

俺を含めたルームメイト全員が、天井から響いた音に飛び起きた。未だにガタガタというけたたましい音は止まない。

「ピーブス!」

肝が冷えるような冷たく厳かな、しかし耳が潰れるのではと思えるほどの声が聞こえた。その途端、天井からの音はピタリと止んで気配が遠ざかっていった。

「……今のは?」

二段ベッドの天蓋から顔を突き出し、いかにも機嫌を損ねたという表情でドラコが尋ねた。

「今のはピーブス。ホグワーツに住む唯一のポルターガイスト」

「ひっ!?」

ドラコの小さな悲鳴の前に聞こえた冷たい声。しわがれたような、またやつれたような声だった。
そちらの方を振り向くと、昨日大広間で見かけた『血みどろ男爵』がセオドールの隣に鎮座していた。

「後ほど私がきつく叱り付けておこう。まあ、毎朝の事な物で今更止めるとも思えんが」

血みどろ男爵は、最後にケハケハと言う笑い声を残してどこかへ行ってしまった。
……考えすぎだろうか。あの血みどろ男爵でさえ俺たちの反応を面白がっているように見える。

「……取り合えず着替えようか」

あまりにも誰も硬直を解かないので声をかけてみる。すると皆がハッと我に返り「そうだな」とか「ああ」とかいう曖昧な反応を見せた。

「おはよう」

「ぅおあ! って、グレゴリー?」

急に頭上から声をかけられ驚いて顔を上げる。早朝なのに既に制服に着替えて立っているグレゴリーがそこにいた。

「……朝飯」

発言から察するに、コイツはお腹が空いて早起きしたらしい。お前の脳みそは胃袋で出来ているのかと問いたい衝動に駆られたが、面倒なので押し止めた。

「あー……それならドラコを手伝ってやれ。朝早く起こされて頗る機嫌が悪いから気をつけろよ」

「ん」

ペタペタとドラコのいる天蓋の方へ歩くグレゴリー。なんとなく、お預けを喰らっている犬のように見えるのは気のせいだろう、と思うことにした。
俺は一度伸びをして天蓋をくぐり準備を始めた。





階下の談話室に三人で下りると、そこには悠々と朝の読書を嗜むミス.オットーがいた。

「スリザリンのモーニングコールはお気に召したかしら?」

俺たちに気がついた彼女は、昨日と同じようなニッコリとした笑顔を向けてきた。その言葉にドラコが眉間を寄せた。

「ええ、本当に愉快な目覚めでした」

「あら、そんな風に怒らないで頂戴な。大丈夫、明日からは耳栓をつければ良い話よ。そうすれば丁度良い目覚ましになるわ」

「昨日の内に教えて頂きたかった情報感謝します」

憤慨したようにドラコは外への出口へ行ってしまった。グレゴリーはドラコに続いて行った。
ああ、デジャヴを感じる。

「あまり彼をからかわないで下さいMiss.オットー」

「シエラ、そう呼んで頂ければ嬉しい限りよ」

あのとても楽しそうな笑み。何となくだが苦手意識を持ってしまう。
何故だろう。
考えを巡らせる前に出口の方からドラコの呼ぶ声が聞こえた。

「……シエラ」

「上出来」

Miss.オットー、基シエラがまた一層ニッコリと笑みを深め、その後また読書に没頭し始めた。
何がしたかったのか分からずじまいでほったらかされた俺は、小さく溜息をついてドラコ達の元へ足を向けた。

「何を話していたんだ?」

待ちかねた、と全身で語っているドラコの問いに俺は生返事をして「お腹が空いた」と言い先へ促した。

「それには同意見」

「グレゴリーは何時から起きてたんだ?」

「……夜明けと共に?」

「お前はどこぞの雄鶏か!」

良い具合に話を逸らす事が出来た。
ふと、シエラのあの笑顔に対する苦手意識に考えを巡らせてみた。答えはすぐに出た。





ああ、母上の薄ら笑いと被るのか




((……そりゃ苦手意識も湧く))
(どうかしたのかヴィンセント?)
(腹が減って、倒れそう?)
(いや、俺はそこまで貧弱じゃない)


[] | []

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -