03
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起き上がったグレゴリーは取り合えず寝巻きに着替える事にしたらしい。ローブを脱いでハンガーにかけた。
なんというゴーイングマイウェイ。
仕方なしに俺も着替えを済まそうと服に手を掛け、ついでにドラコがベッドの端に引っ掛けたローブもかけてやる。
二人とも着替えて落ち着いた所で、月明かりが差し込む窓の縁の小さなテーブルに腰掛けた。
因みにスリザリン寮は地下にある。きっとこれも魔法によるものだ。
「さて、俺が聞きたい事は分かってるよな?」
「鼠……ウィーズリーの?」
「その通り。その前に怪我した指出せ。治ったか見るから」
「ん」
素直に出された指に巻かれた包帯。
偶々夏休み中に実験として作った簡易の傷薬を持っていたので、列車の中で塗っておいていたのだ。父上にはまあまあの出来だと言われているが、少し心配だった。
包帯の下にあった筈の噛み跡は綺麗サッパリ無くなっていた。それを見てホッと一息つき本題に戻る。
「で、あれはどういう事なんだ?」
“あれ”とは、先程グレゴリーが言った通りウィーズリーの鼠がグレゴリーの指に噛み付いた件について。
「あの鼠、普通の鼠じゃない」
「というと?」
「分からない」
「……普通じゃないのは一目瞭然だ。俺やドラコならまだしも、あの鼠は他ならぬお前に噛み付いた」
「うん、しかも俺が意図して止めに入ったのに。……こんなの初めてだ」
グレゴリーの目が伏せられた。
彼には特殊な力がある。それは元々ゴイル家の祖先が持っていた能力で、近年までは血が薄れて失われた能力とされていた。
「魔法生物が俺の意思に従わないなんて、今まで無かった」
遵守の能力。
ある程度魔力を有する魔法生物を従わせる、とても稀な能力だ。失われたとされるその力を、どういう訳かグレゴリーだけ色濃く受け継いだ。彼があまり感情を起伏させないのはこの為である。
彼が怒りに任せて魔法生物を一睨みすれば、睨まれた者達は有無を言う事無く自ら首を彼の前に垂らす。効果の差は個々によってあれど、これはどんな生物にも言える。
どこまでその能力が発揮されるかと言うと、グレゴリーが強く願えばそれは人間にまで及ぶ。人間の場合は畏怖の念を感じるだけで済むが、それは彼が本気で人間を従わせようと思ったことがないからだと俺は予想している。
だが今回はそれと訳が違う。魔法生物としては知能が低い筈の、理性より本能の方が強い鼠。今回の対象はそんなちゃちな奴だったのに、なのにあの鼠はグレゴリーに従わなかった。グレゴリーがそこまで強く望まなかったというのを考慮に入れるにしても異色な事だ。
俺は無意識に手を口元にそえて考え込んだ。
「可能性としては、強い魔力を持った大層な鼠か、はたまた珍しく理性が強い鼠か。あとはウィーズリーに強い忠誠心を持っているか」
「……」
「……なんて顔してるんだよグレゴリー」
顔を彼に向けると、あろう事か彼は微笑んでいた。薄く、ほんの小さな微笑みだったが確かに笑っていた。
「初めてなんだ、こういうの」
「気を使わなくても良い動物がいるなんて」
「知らなかったから」
グレゴリーは伏せていた目を開けた。その目は心なしか、いつもよりキラキラと輝いていた。
「あの鼠と、仲良くなりたいなぁ」
思わず絶句した。
「……え?」
「明日にでも名前を聞いてみよう」
「グ、グレゴリー?」
「頼めばくれたりしないかなぁ」
「おーい……」
「ん?」
「少し、すこぉーしだけで良い。落ち着こうかグレゴリー」
「えー……」
思わず頭を抱えた。いや、グレゴリーが活き活きするのは大いに構わない。
構わないのだが、如何せん相手が悪い。
「(ドラコが黙ってられるわけないだろ……)」
明日からの学校生活が少し心配になってきた。
……俺はこいつらの母親かってんだ
(……眠くなってきた)
(ベッドに入って寝ろ。風邪引くだろうが)
(ん)
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