02

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俺たち三人、俺とグレゴリーとドラコは迷いの無い帽子の一言で見事同じ寮に割りふられた。即ち俺たちはスリザリンである。

新入生歓迎会を兼ねていたであろう豪勢な夕食の後、俺たちは監督生について寮部屋へ辿り着いた。地下に続く階段を降りたその奥にそれはあった。
扉の合言葉を唱え、何を話すでもなく先導していた監督生が談話室に入ってクルリと振り返る。肩より長い金髪を1つに纏めていて、猫目を彷彿とさせるグレーの光彩だ。

「まずは一年生諸君、改めて“ようこそ”と言おう。
俺は今年監督生に任命されたアレン・ティエールだ。もう一人は君らの後ろにいるシエラ・オットー」

「よろしく」

後ろを見るとゴムバンドで前髪をオールバックにしている、癖っ毛な銀髪ボブヘアの女が立っていた。薄い笑みを顔に貼り付けて、緩く腕を組んでいる。瞳は鮮やかなコバルトブルーだ。

「知っての通りここは純血主義が多いスリザリン。“血”に関しては口煩い。
無いとは思うがもしもこの中にマグルとのハーフ、又はマグル出の者がいるのならば名乗り出ないのが賢明な判断だろう」

隣にいるドラコがピクリと動いた。
彼としては、高貴なスリザリンにマグルの血が混ざっているのは耐えられないだろう。きっと炙り出して追放したいとさえ思うはずだ。

「まあ、今までそんな事は一度も無かったがな。この言葉はいつからか毎年進級する度に監督生が言ってきた物、言わば決まり文句だ。
さて、部屋割りはこの紙に書いてある通りだ。願わくは今年も寮杯を獲得できるよう、明日から学校生活楽しむように。質問があればいつでも聞いてくれて構わない。それでは解散」

本当に決まり文句なのだろう。スラスラと出てくる、気を抜けば聞き流してしまうような台詞をしっかり聞き取り、談話室の丸テーブルに置かれた羊皮紙を覗き込んだ。幸運にも三人とも同じ部屋だった。
ふとそのタイミングである事を思い出し、その対象である人物に顔を向けた。

「ドラコ、確かお前朝苦手じゃなかったっけ?」

「……」

「……分かった、起こしてやるからそう睨むな」

あれか、自分の弱点を公言されて嫌だとかそう言うことか。だからと言ってそんなジト目で見られても困るという物だ。

「スリザリンに居れば否応なしに早起きできるわよ」

「「!?」」

気配も無く後ろに佇んでいたのは、先程紹介されていた女監督生のシエラ・オットー。

「……どういう意味です?」

ドラコは剣呑な目で聞き返した。その目に気付いたシエラがにっこりと微笑んだ。

「明日になれば分かるのだからそんなに焦らなくて良いんじゃない?」

ニコニコと楽しそうに笑う彼女の笑みは、まるで本当に可笑しそうだ。

「何かあることを示唆しといて焦らすだなんて酷いなあ」

負けじとドラコまでニヤリと笑った。
ああ、面倒な事になった。ドラコの今の心情はきっと「売られた喧嘩は高く買い取る」という物だろう。
……この負けず嫌いが。

「あら、気を悪くしたのなら謝るわ。なるべく楽しみは取っておいて欲しいの。それより、彼の事は良いのかしら?」

彼女はにこやかな笑みを歪めること無く掌で俺達の後ろを指し示した。その方向に目を向けると、そこには談話室のソファで既に寝る体制に入っているグレゴリーがいた。

「……ヴィンセント、運んでやりなよ」

「そういうドラコこそ」

「それは僕に対する嫌味か何かかな?」

「はいはい、ドラコに平均身長を越えているグレゴリーは荷が重いもんな」

「ヴィンス!」

「あはは」

ドラコをからかいながらグレゴリーの両脇に腕を差し入れる。流石の俺でもグレゴリーを抱き抱えるのは難しい。
はた、とそこで気付いて振り返った。

「Miss.オットー、教えて下さってありがとうございます」

「礼には及ばなくてよ、文字通り」

優雅に手を振るミス.オットーは、結局最後まで笑みを崩すことが無かった。





ようやっとグレゴリーを部屋のベッドへ押し込んで一息ついた。先に部屋へ入っていた他の者達は既に就寝している。
そりゃそうだ。
入学初日に疲れないような体力馬鹿なんてそうそういない。

「ドラコも寝ると良い。明日から暫くはバタバタするだろうから休める時に休んどこう」

「ああ。お休みヴィンセント」

「お休み」

欠伸を噛み殺すドラコはフラフラとしながら着替えてベッドに潜り込んだ。
見栄っ張りな彼は他人の前ではなるべく虚勢を張りたがる。さっきだって本当は疲れて仕方がなかった筈なのに見栄を張っていたに違いない。
間もなくして規則正しい寝息が聞こえてきた。
その一部始終を見た俺はクスクスと静かに笑い、そして振り返った。

「聞きたい事がある。少し良いか?」

「……ん」

むくりと起き上がったのは、談話室で真っ先に寝た筈のグレゴリーだ。





学生生活が始まる前夜




(階段……引きずられて痛かった)
(……悪かったよ)


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