01

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「後ろの方のコンパートメントに彼の“ハリー・ポッター”がいるらしいんだ」

ニコニコと笑いながらそう言ってのけたのは、昔馴染みのドラコ・マルフォイ。マルフォイ家の嫡男で俺の家、クラッブ家とも交流があり双方とも古くからの純血の魔法族だ。
つまり俺、ヴィンセント・クラッブとドラコ・マルフォイは幼馴染である。

「へぇ」

今ドラコの言葉に口数少なく応えたのはグレゴリー・ゴイル。俺のような普通の短髪ではなくアシンメトリーな髪形の、言わば美少年。
俺たちとは違いそこまで有名な魔法族という訳ではないが、ゴイル家は純血を守る一族の一つだ。
グレゴリーは今まで静かに読んでいた薬草学の教科書から視線を上げてドラコに目を向けている。因みにコイツとも幼馴染。

「反応が薄いな。見に行きたいと思わないのかい?」

ドラコはグレゴリーの反応がお気に召さなかったらしい。まだ男らしいとは到底言えない幼い顔を歪ませて不満げだ。
思った通りに事が進まないとすぐこれだ。内心苦笑しながらも、俺はフォローに入る。

「グレゴリーは遠慮してんだよ。ああ勿論俺は見に行くのに賛成だぜ」

「そう言うと思って誘ったのさ。行くよ二人とも」

俺の言葉を聞き即座にご満悦な表情をしたドラコはローブを翻してコンパートメントを出て行った。

きっと彼は数歩歩いた所で足を止めて俺たちを待っているに違いない。ドラコは自尊心が高い上に結構な寂しがり屋だ。行かない訳にはいかない。
読みかけの教科書に栞を挟んだグレゴリーを連れて、俺は立ち止まって振り返ってるであろうドラコを追いかけた。

先程はああ思ったが、あのハリー・ポッターに興味が無いわけではない。同じ学年と言う事もあり、一度は会う機会があるだろうとしか思っていなかったが。





ハリー・ポッターであろう人物がいると言うコンパートメントまで来て新たな発見があった。
なんとドラコとハリー・ポッターは面識があるらしい。自己紹介は今が初めてらしいが、偶然とはあるものだ。

「こっちはヴィンセント・クラッブ、こっちがグレゴリー・ゴイル」

ドラコの後ろにいた俺たちをドラコが急に紹介した。紹介の仕方がぞんざいな気もするが、こんなのは慣れっこだ。最近では、俺たちがドラコ以外の他の奴らとつるむのを嫌がってそうやってるのだと前向きに考えるようになった。
……強ち間違っていないと俺は踏んでいるが断じて自意識過剰なんかではないとここに記録しておこう。

「そして僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」

胸を張って宣言する彼は、本当に自分の家に誇りを持っているのだろう。
だからこそドラコは、その名前を笑った赤毛の男子に食って掛かった。当人は誤魔化そうと咳払いをしようとしたのだろうが見え見えである。

「僕の名前が変だとでも言うのかい? 君が誰だか聞く必要もないね。パパが言ってたよ。
ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほど子どもがいるってね」

そうだったのか。ドラコの話を聞いて合点がいった。道理で覚えのあるような容姿だと思った。
正直ドラコが何故そんな無駄知識覚えていたか疑問だ。多分親同士の仲が悪いとかそんなところだろう。

その後ドラコはハリー・ポッターを「ポッター君」と呼んで何かしらを言い握手を求めていた。
なんて言って握手しようとしたのかは聞き逃した。グレゴリーの視線の先が何処に向いているのか目算していたからだ。
彼はコンパートメント内を埋め尽くす菓子類をジッと見つめていた。

グレゴリーはたしか先程かぼちゃパイ食べた筈なのだが。しかもワンホール。
常々思っていたが、コイツの腹はブラックホールだ。

そうこうしている内にドラコの雰囲気が一変した。顔も見ず、空気の流れだけでもって彼の機嫌を分かるようになったのは、一重に昔からの経験からであろう。

「もう一ぺん言ってみろ」

ドラコの何かしらの言葉に反感を覚えたのだろう、ウィーズリーが立ち上がって唸る様に言った。
きっとドラコが癇に触るような事を言ったに違いない。コイツは極度に友人作りが下手糞だから。俺らは珍しい例外だ。

「へえ、僕たちとやるつもりかい?」

言わずもがな、俺たちも自然と数に入っている。分かりにくくはあるが、これがドラコ自身が認めた友人である証拠だ。
些か無理強いの気配が漂うが。

「今すぐ出て行かないならね」

今度はポッターが口を開いた。
第一印象はただの根暗。今は無謀な奴、と俺の中ではインプットされた。数は3対2、体格的にも分が悪い上で喧嘩腰になるとは。勇敢とも取れるが如何せん感情に突っ走り過ぎだ。それに関してはドラコ坊ちゃんにも言える事ではあるが。

「出て行く気分じゃないな。君らもそうだろう? 僕たち自分の食べ物は全部(グレゴリーが)食べちゃったし、ここにはまだあるようだし」

台詞の中に何か含みがあったが目の前の二人は気付いてもいないだろう。思わず俺は小さく笑ってしまった。
ウィーズリーに睨まれた気もするが気にしないことにした。

ニヤニヤと意地の悪い笑みを湛えたドラコが蛙チョコのパッケージに手を伸ばした。
それを見たウィーズリーがとうとう本格的に怒ってしまったらしい。すぐに掴みかかって来た。

しかしそれは意外な人物によって止められた。

「……グレゴリー、何故止めるんだい?」

今日一番の険しい顔つきでドラコが問うた。これには俺も驚かされた。
今、グレゴリーはドラコの腕を片手で掴み上げ、もう一方の腕でウィーズリーの身体を止めている。いつものグレゴリーらしからぬ俊敏な速さでだ。

一瞬の沈黙の後、俺はある事に気がついた。
ウィーズリーを止めているグレゴリーの手元からキーキーと言う鳴声が聞こえる。

「って、おい。血ぃ出てんぞ」

あろう事か、その音源はグレゴリーの指に齧り付いている薄汚い鼠から発せられていた。

「……しくった」

「ああ、掴もうとして失敗したんだ。で、なんで平然としてんだ?」

「……痛いけど?」

「なら振り解け! 馬鹿かお前!?」

事態を把握したドラコが突然叫びながらその鼠を引っぺがした。引っぺがしたついでに窓に叩き付けられた鼠はそのまま気絶したようだ。

全然痛そうには見えないのだが、他ならぬグレゴリーが自分の口で痛覚を訴えたのだ。相当痛いのだろう。

「もう良い! グレゴリー、ヴィンセント、さっさと帰るぞ!」

何に憤慨してるのやら自分でも分からなくなっているのだろう。ドラコはそのまま足音を立てながら元のコンパートメントの方向へ歩いていった。

ダラダラと流れる血を数瞬見たあと、グレゴリーはゆっくりと視線をウィーズリーに向けた。対するウィーズリーは半歩後ずさる。
ウィーズリーはグレゴリーの無表情に、怒らせたかとか思ったのだろうが、それは見当違いだ。グレゴリーの無表情はテンプレートである。。

「……ペットの躾くらいしっかりするべきかと」

そう言い残して彼は手近にあった蛙チョコレートを幾つか引っつかみコンパートメントを去っていった。

「あっ! チョコ!」

「はは、あれで済んで良かったじゃねえか」

ポッターの言葉にそう返せばまたキッと睨まれた。うん、あまり怖くない。

「慰謝料にしては安いもんだぜ? 差し詰め初回限定といった所か。……アイツ、本気で怒ると俺たちの中で一番おっかねえからな」

ニヤリ、とした笑みを向けるとポッターとウィーズリーは複雑そうに眉を寄せた。多分想像がつかないのだろう。仕方ないと言えば仕方ない。だが事実だ。

「忠告しておこう。グレゴリーだけは怒らすな。正直後始末をする俺が面倒」

そう言って、俺は情報料ついでに甘草あめを三つほどポケットに忍ばせてその場を去った。後で二人に1つずつ渡して機嫌を直してもらうとしよう。



ポッターとウィーズリーはドラコと対立した。
これで、俺やグレゴリーと敵対することはあれど、味方なんぞになる可能性は無くなった。
精々俺らの逆鱗に触れないように努めることだ。

そう思いながら俺がほくそえんだのを、一体何人が目撃した事だろう。
誰かに見られるようなヘマを俺がするわけ無いけど。





友情なんて恥ずかしいじゃないか




(……アグリッパ出た)
(はあ? またレア物? お前カード興味無い癖にすげー引き良いよな)
(それ、僕にくれるよね?)
(ん)


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