08

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継続して体全体にかかるGと、時折何の前触れもなく襲う浮遊感。
走る経路が鍾乳洞であるため、何度もぶつかりそうになっては回避される石柱に肝が冷えた。
ぶっちゃけ、そこら辺の絶叫マシーンよりも刺激的だ。
だが、生まれ着いての丈夫な三半規管のおかげか、酔うことはない。



「立ったまま運転して、振り落とされないんですか?」

「小生は長いことこちらに勤めておりますが、我々がそのような不測の事態に陥ったことは一度もありませんな。
 しかし、時折ヒトであるお客様方には、そう、そのようなこともなかったとは言い切れますまい。」

「その方も運が悪い。地上に戻るのに並々ならぬ苦労をされたでのしょうね。」

「ですが、かろうじて命を落としたヒトはおりませんよ。分不相応なことをしでかそうとする輩以外にはね。」



ちらりと後ろを振り返って彼の顔を伺い見ると、それはそれはさも愉快といわんばかりの笑顔だった。
子鬼というのは、結構いい性格をしているのかもしれない。
金庫について、扉を開けてもらうと、無駄に輝かしい金貨がうず高く積まれていた。
それを見ても、特に感じるものはなく、事務的に必要な分だけ金貨を袋に入れていく。
入れる途中、後ろに控えている子鬼に魔法界のお金の単位を聞いたが
1ガリオンは17シックル、1シックルは29クヌートなどと、いかんせんキリが悪い。



「このお金、どこから?」

「生前のジェームズ・ポッター様の金庫からのものでございます。
 当時のポッター様は旧家ポッター家の当主。つまり、一族の全財産があの方の名義でありました。
 目の前の金の山はその名残でございます。」

「…ポッター家、当主。」



由緒正しい血筋の家だと、前世の記憶ではそうだったと思う。
なるほど、それなりに力のある一族だったわけだ。
当主であるジェームズ・ポッター亡き後、生き残ったのはその娘、ただ1人。



「貴女も難儀なお方だ。ご自身の知らぬ間に大きな業を背負わされている。
 業だけではない。そのうちに秘めた魔力も、あなたの持つ因縁なのでしょう。
 大きすぎる力は己をも滅ぼす。よくよく油断召されぬことです。」

「……ご忠告、ありがとう。肝に銘じておきます。」

「ふむ、貴女の事象に対するその素直な心構えは実に好ましい。」



そう言って、くしゃくしゃに笑う彼はどこか人間に近いものを感じた。
思わぬ反応にびっくりしつつも、悪い気はしなかった。
再びトロッコに乗って、地上を目指す。
当分これには乗りたくない。



「子鬼さん、お名前を伺っても?」

「小生、ロノウェ=ザガンと申すもの。グリンゴッツのしがいない案内人でございます。」

「改めまして、イベリス・ポッターです。」

「ええ、よく存じ上げておりますよ。『創られた聖女』『異邦児』……我々子鬼の間でも有名だ。」

「……そういう目立ち方は、嫌だなぁ。」



思わず苦笑する。
『創られた聖女』、ずいぶんと皮肉を込めた呼び方だ。
それに『異邦児』とは、―――――― 彼らは、知っているのだろうか?



「こことは異なる世界から、異なる真理を携えて、貴女はここに来た。
 歓迎いたしますよ、Ms.ポッター。不運なお嬢さん。」





そう言って、至極愉快だとニヤニヤしている憎たらしい子鬼。

あ、今までの好感度が一気に地の底辺まで落ちた。

さすがは子鬼、煮ても焼いても食えそうにない。

というか、一言いいだろうか?



人事だと思って楽しむな、コノヤロー。





(イヤ、人事なんだろうけれど。)


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