07

-----------------------

キング・クロス駅中央ホール、時計台前に10時。



「君がイベリス・ポッターかね?」



案内人はセブルス・スネイプ。



魔法界デビュー早々、手厳しい洗礼を受けそうだ。





鷲鼻に土色の顔肌。
ねっとりとした前髪からのぞく目は、それはそれは不快そうに歪められていた。
私じゃなかったら、普通の女の子は泣き出していたに違いない。

十中八九、面倒ごとを押し付けられて不機嫌なのだろう。
ホグワーツ側もなにも嫌がる人に案内させることないのに。



「今日は、よろしくお願いします。Mr.スネイプ。」

「……きたまえ。我輩も暇ではないのでね。あまり時間を掛けたくはない。」



言外に寄り道など一切許さないと言い渡され、さっさと先に行かれてしまってはそのまま付いていくしかない。
そのまま駅を出て、立ち並ぶビルの間にひっそりとたたずむ一軒の店へと入る。

言わずと知れた、パブ『漏れ鍋』。

セブルス・スネイプは店主への挨拶もそこそこに、さっさと店の裏口へと向かう。
近くの椅子に座っていた老婆は、全身真っ黒な男とマグルのような少女の組み合わせが気になったのか、
裏口の扉が閉まるまでその視線をはずすことはなかった。

変に騒がれることはなさそうだ。

裏庭に出ると、セブルス・スネイプは懐から杖を出し、こちらを一瞥する。



「よく見ておけ。君を案内するのは、これが最初で最後だ。」



そう言って、いかにも面倒だと言わんばかりにため息をつく。
そしてレンガの壁を数箇所、すばやく杖で叩いていった。

(どこを叩けばいいのか、分からなかった……)

この人、絶対説明する気がない。

レンガの向こう側は、千紫万紅に彩られた人の波。
人酔いしそうだ。
思わず眉をひそめた。
隣の方も、眉間にしわを寄せている。



「はぐれれば置いていく。ここで迷いたくなければ、余所見などしないことだ。」



そう言って彼は、人ごみの中に身を投じた。
置いていくとな?
そんな殺生な。
ただでさえ足のコンパスが違うのに、手をつなぐならまだしも
この人ごみの中ついて行かなければならないなんて。

だが、無常にも、前を行くこの男は歩調を緩めることさえしない。
ようやくの思いでグリンゴッズ銀行に到着したときには、イベリスはすでにくたくただった。

セブルス・スネイプは銀行の中に入っても、休むことなくまっすぐにカウンターへと向かう。



「イベリス・ポッターの金庫を開けてもらいたい。」



彼は金庫の鍵をカウンターにいた子鬼に押し付けながら言った。
まったく、上がった息を整える時間すら与えてくれないのか。
ここまで一言も会話を交わしていないことに気付き、本当に人付き合い悪い男だと心の中で毒づいてみる。
だがそれで何かが変わるわけでもなく、いつの間にか別の子鬼に案内され
トロッコに乗り込もうというところだった。



「……あの?」



乗り込もうとしたは良いが、目の前にいる男はなかなか乗ろうとしない。
どうしたのだろうか。



「……チッ」



ワーォ、舌打ちですか。
もしかしなくても、トロッコ苦手なんですね?



「…Mr.スネイプ、これに乗って金庫に行くんですか?」

「……そうだ。グリンゴッズの金庫はロンドン地下に広がる巨大な迷路、一度迷えば再び日を見ることはない。」

「当銀行の防犯は、魔法界で他の追随を見せません。」



そう言ってトロッコの操縦席に乗る子鬼は誇らしげに語る。



「お金、どれくらい下ろせばいいんですかね。」

「80ガリオンもあれば足りるだろう。」

「ガリオンって…」

「お客様、他のお客様も控えております。急いでご乗車ください。」



結局いつまで経ってもトロッコに乗ろうとしない私たち二人に、
痺れを切らせたのか若干イライラしながら声を掛ける子鬼。
だが、それでも目の前の男はトロッコに乗ることを渋る。
そんなにこれがイヤなのか。
仕方ないので、お金を入れるはずだった袋を彼の手から奪い取り、一人さっさとトロッコに乗り込んだ。



「なんのまねだ、Ms.ポッター。」

「金庫に行ってきます。Mr.スネイプはロビーで待っててください。」

「何?」

「お願いします、子鬼さん。」

「おいっ!」



彼の声もむなしく、待ってましたといわんばかりに急発進するトロッコ。
ぶっちゃけてもいいだろうか?





トロッコ、舐めてた。


[] | []

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -