05

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「久しぶりだなぁ、イベリス。お前さんに初めて会ったときは、まだ小ぃさい赤ん坊だった!」


「はぁ、まぁ、……はじめ、まして?」


第一印象は、『でかい・うるさい・むさい』の三拍子だった。









迷惑メールのごとく届くふくろう便の嵐に見舞われ、一時泣く泣く住居を移すこととなった私とダーズリー一家。
あの量は度が過ぎるのではないかと思う。
おかげでただでせさえ神経質なおばさんが軽くノイローゼに陥り、
そのとばっちりがすべてこちらに来るものだから、たまったもんじゃない。

一軒家というにはお粗末な、海沿いに建つ小屋に逃げるように入り、
一夜を明かすこととなったところで現れたのが、『彼』。



「俺の名はルビウス・ハグリット。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ。お前さんを迎えに来た!」



そう言って、無遠慮に頭をかき回してきた。
本気でやめてほしいと思った。
冗談じゃなく首がもげる。



「ほれ、お前さんへの手紙だ。返事は俺が出しておいた。なぁに、何も心配することはない。」



まて、私は行くとも行きたいとも言っていない。
人の進路を勝手に決めるな。
ただでさえ『あちら側』には行きたくないのに。



「世界一の魔法使いと魔女の名門校だぞ?『ホグワーツ魔法魔術学校』だ!
これから七年間、同じ仲間の子供達と一緒に過ごす。」



まるで自分のことのように、誇らしげに話すハグリットを冷めた心地で見上げる。
はて、彼は私と会ったことがあるといっているが、どうだったかな?

母親のおなかの中にいたころからすでに自我を持っていた私は、
普通の人ならば覚えていないような赤子の時の記憶が鮮明に残っていたりする。

不本意ながら、『あの日』の記憶もはっきり残っているわけで、
あの事件の後会ったというなら覚えていると思うのだが、そこのところがあやふやだ。

(まぁ、あまり冷静ではなかったから……)

あまり気持ちの良いものではない。
腹の奥底で波打つ感情を、抑えるように静かに瞼を下ろすと
部屋の角で青い顔をして震えていたはずのバーノンおじさんが突然大声を上げた。



「くだらん!」



いつの間にか威勢が戻り、顔を真っ赤にしてハグリットをにらんでいる。



「何をバカげたことを!!気は確かなのか?!『魔法学校』などと!」

「だまれ、ダーズリー!!この子には、この手紙を受け取る権利がある。
イベリスの名前は生まれた時から入学名簿に載っておるのだ。
なのに、貴様らときたら、手紙を受け取らせまいと逃げまわりおって!」

「当たり前だ!貴様らのような頭のいかれた連中と関わりなんぞ持ってたまるか!」

「この、コチコチのマグルめ。お前さんが喚こうが、この子が行きたいというなら止められまいよ。」

「……あの」



あまりこの言い争いを長引かせたくない。
期待はしていなかったが、案の定、静かに話し合いなど出来るはずもなく
唯一の大人で、場を収束できそうなペチュニアおばさんも、まったく使い物にならなさそうだった。



「まったく、話には聞いていたが、こうも聞く耳をもたんとは。ダンブルドアの言いなさったとおりだ。
お前さんを捕まえるのに、これほど苦労するとはな。」

「Mr.ハグリット、少し、いいですか?」

「そう他人行儀になることもあるまいよ。ハグリットと呼んでおくれ。みんなそう呼ぶんだ。」



いや、あなた、明らかに他人でしょう。



「……ハグリット、悪いけれど、私はそちらの学校には行きたくありません。」



そういったとたん、目の前の二人は対極的な表情を取った。
片や、この世の終わりとでも言うような顔をして、わなわなと震え始め
片や、勝ち誇ったかのように、にんまりと笑っている。

そして前者は、目に涙を浮かべて、声を震わせながら訴えてきた。



「そんな、おまえさん、……何の冗談だ?あの、イベリス・ポッターだぞ?
俺達の世界で、その名を知らないやつはいねぇ。それが、それが……っ」



「やめてちょうだいっ!!」



その場に、つんざくような声が響いた。



「これ以上は、もう、たくさんよ!この子が言ったのよ、ソチラには、行かせないわ!」

「もういいでしょう?!帰って!!」



先ほどまでの怯えようが嘘のように、その場を圧倒するペチュニアおばさん。

だが、ハグリットもこのまま引き下がるわけには行かないらしく
その巨体に見合う大きな声を張り上げて反論した。



「ふざけるなっ!ようやくだ、ようやく帰って来るんだぞ?!この子がいるべき世界、この子の両親の世界にだ!
何故邪魔をする?!それに、他でもないあの二人の子供が、魔女にならんとは、酒のつまみにもならん冗談だ!」



おいおい、これこそ何の冗談だ?
さっきよりも言い争いがヒートアップしているではないか。
お互い、一歩も引く様子がない。
まるで昼ドラのワンシーンを見ているようだ。



「この子と、リリーは、関係ないわ!」

「何を、バカげたことを!!この子と母親が関係ないだと?!」



あ、マズい。
それ以上はダメだと、警鐘がなる。



「…おばさん、「この子は、何も知らないのよ!!」

「 なんだって? 」



ああ、もう……



「どういう、ことだ。なにも、なにも知らないだとっ?」

「誓ったのよ!この子を引き取るとき、あなた達とは関わらせないって!
この子は知らないわ。自分の両親のことも、自分のことも!」

「ペ、ペチュニア!」



焦ったバーノンおじさんの声も、もはやおばさんには届いていない。
ハグリットは怒りを通り越して、唖然としていた。顔色もあまりよろしくない。
『イベリス・ポッター』が何も知らないことが、かなりショックだったのだろう。
実際、『私』は両親のことさえダーズリー夫妻から一度も聞かされなかったし、また聞きもしなかった。

だが、すでに見て、知っているのだ。
自分の『両親』と呼べる人物達が、崩れ落ちていく様を。
二人を貫く、緑の光線を。
マントの影に浮かぶ、赤い双眸を。

間近で、感じ取っていたのだ。
『両親』のリアルで確かな死を。



「行かせるものですか…、あんな所、あんな連中の所に!そうよ、命がいくつあっても足りやしない!
無駄死じゃない!リリーの二の舞なんてさせないわっ!!」






雷が轟く、嵐の夜。

狭い小屋の中。

行かせはしないと、ただ叫ぶことしか出来ない彼女にとって

これは、最後の悪あがきだったのかもしれない。


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