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「ハーマイオニー……、また勉強?もう寝たら?」

「そんなに焦らなくてもいいと思うのだけれど……」

「いいえ、私魔法界のことは何もかも初めてだから準備は万全にしておかないと。
 当てられて答えられないなんて、そんな恥じ掻くの耐えられないわ。」



とっくに就寝時間は過ぎているというのに、同室のハーマイオニー・グレンジャーは未だ机にかじりついている。
彼女返答に同じくルームメイトのラベンダー・ブラウンとパーバティ・パチルは呆れを隠せないでいた。
付き合っていられないといわんばかりに溜息をついて、二人とも自分の寝床にもぐってしまった。
もう何日も前から変わらず行われているやり取りだ。



イベリスはその様子を自分のベットに横たわりながら黙って見ていた。



「何よ……、あら?貴方何書いているの?」

「手紙。学校生活のこととかね。」



二人にあしらわれた事に若干腹を立てつつ、ハーマイオニーはイベリスに話しかけて来た。



「気分を悪くしたら悪いんだけど。貴方、ご両親いないのよね?」



随分とストレートな物言いをする子だと思う。
気になった事はなんとしても追求して答えを見つけないと気がすまない性分なのだろう。
好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだが、彼女の場合悪意はない。
しかし、人に対するその無遠慮さは何かと敵を作りやすい。



「うん、そう。でも育ててくれた人たちはいるから。」

「ああ、なるほど。」



彼女は沈黙が苦手らしい。
そのまま会話が途切れてしまうと、居心地が悪そうに視線をあっちへやったり、こっちへやったりと忙しない。



「不安?」

「え?」



手紙を書き終えて、イベリスは綺麗な封筒にしまい封をする。
明日は朝一番にこの手紙をふくろうに預けに行こう。



「眠れなさそうだし、少し焦って見えたから。そうなんじゃないのかなと思って。」



違っていたら別にいいんだけど。

そう言って彼女に視線を向けると、彼女はカッと顔を赤くした。
そしてみるみる眉を吊り上げていく。
どうやら怒らせてしまったらしい。
はて、今の台詞に彼女の怒りに触れるようなことがあったのだろうか?


「別にそんなんじゃないわよ!貴方は、余裕なんでしょうけれどね。
 油断していると今に足下すくわれるわよ。
 たった数年の差じゃない!貴方達に遅れを取るつもりはないんだから。」

「……何の話?」

「とぼけないでよ!私が、マグル出身だからって、後の二人と同じように馬鹿にしているんでしょう!」



いやいやいや、何を言い始めるのかと思えば。



「なによ、すました顔しちゃって!今日の魔法薬学の授業だって、貴方が答えていたことくらい、私にも出来たわ!」

「『生き残った女の子』だかなんだか知りませんけれどね、それがなによ!」

「どれだけ偉いのかしらないけど、少なくとも学校の中ではみんな平等に扱われるべきだわ!
 贔屓なんて、あの先生も何を考えているのかしら。それに甘んじている貴方も貴方ですけど!」



彼女は、今日の魔法薬学の授業での自分の扱われ方に大層ご立腹らしい。
だが、言わせてもらえばあれは決して贔屓などではなく、ちょっとした生徒いびりな気がするのだが。
彼女にとっては、きっと違ったのだろう。



「この前の変身術の授業だって、マッチを針に変えられたのは私が一番だったのに、
 ちょっと針の先が丸くなってたからって。なにが『完璧な針』よ!私のほうが早かったじゃない!」

「妖精の魔法の授業のフリットウィック先生だって良くないわ。
 あんなあからさまに名前なんかで反応して!」



ここ数日間の教員達のイベリスの扱いにかなり不満があったようだ。
相当溜まっていたのだろう、せきを切ったようにあふれだす不満は、
結局他のルームメイト達が起きてしまうまで続いた。



「ど、どうしたのよ、ハーマイオニー?Ms.ポッターに何か言われたの?」

「っ、何にも言われてないわよ!そうよ!単に八つ当たりしてるだけ、笑えば良いじゃない!
 『頭でっかちで、知ったかぶりのグレンジャー』って!」



言いたい事だけ言って、彼女は部屋着のまま出て行ってしまった。
残されたルームメイト達は、何がなんだか分からずオロオロするばかりである。



あぁ、面倒な。



「先に寝てて。Ms.グレンジャーを連れ戻してくるわ」

「え、っでも、消灯時間も過ぎているのに、怒られちゃう」

「そうよ、放って置いた方が……」

「寮の外に出なければ大丈夫。彼女のことだもの、さすがに寮の外には行っていないわよ」



そう言って、もしもの時に備えて手ごろな毛布を一枚脇に抱えて部屋の出口に向かう。



「Ms.ポッター、まさか、貴方も部屋を出て行く気じゃ、ないわよね?」

「連れ戻しに良くだけよ。どうなるか分からないけれど。
 部屋に戻らなくても談話室にはいると思うから、心配しなくていいわ。」



そう言ってイベリスは、彼女達を安心させるように優しく笑った。
そんな彼女に、残りの二人は思わずポカンとしてしまう。
思えば自分のルームメイトとまともに話したのも、最初の自己紹介のとき以来だったかもしれない。



(いくら面倒だからといっても、流石にサボりすぎたかしら)



自分の愛想のなさに若干反省しつつ、そのまま部屋を出る。
規則を重んじるハーマイオニー・グレンジャーのことだ。さすがに寮の外へ行くような事はない。
恐らく談話室のソファーにでも座っているのだろう。
イベリスは疲れた身体に鞭打って、今まで人との関わりを怠っていたツケを払いに階段を下りていった。


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