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「ポッター・イベリス!」



背筋を伸ばし、前を見据え一歩踏み出す。

さぁ、開演の時間だ。







「ポッターって、あの?」

「『生き残った女の子』?」



大広間に様々なささやき声が広がる。
一歩一歩踏み出すたびに好奇の目がイベリスを追っていった。
蛇の寮のテーブルでは、先程組み分けを終えたばかりのセオドール・ノットが目を見開いていた。
獅子の寮のテーブルでは、自分の組み分けでもないのにやたら緊張した面持ちで
こちらを見守るネビル・ロングボトム。
身を乗り出してこちらを伺っている。

壇上の椅子に座るとすぐに帽子が被せられた。
帽子の内側の闇は、自分の心を落ち着かせてくれるものだが、少しかび臭いのが難点だ。



『ホグワーツ創設以来、ずっとこの仕事を任されてきた。
 年季も入っておる。多少のかび臭さは勘弁しておくれ。』



頭の中の愚痴はばっちり知られてしまったらしい。
心を読まれるというのも、中々厄介なものだ。



『君は闇を恐れないのだね。それに、ホォ、何に代えても守りたいものがある。
 フム、その歳にしては珍しい程の強い意志を秘めておるな。』



この帽子の台詞は、他の人にも聞こえるものなのだろうか。
出来れば自分の頭の中に響く程度にとどめておきたい。
余計なことを公言され、厄介な人物に目をつけられたくはない。

(某狸爺な校長とか某ターバンの中に隠れている亡霊とか、某陰険な魔法薬学教授とか)



『はてさて、非常に難しい。勇気と無謀の分別がある。頭もいい。
 おぉ、なるぼど、守るための強さを求めるか。』



《守るための強さ》
言い方は色々あるだろうが、確かにそうかもしれない。
今ある大事なものを、これ以上失わずに済むようここにやってきたのだから。



『じゃが、君の選ぼうとしている道は険しく厳しいものだ。
 他にも道はあるのだよ?それでもあえてその道を選ぶのかね?
 ……ウム、意思は変えぬか。よろしい!……ならば君はこの寮。』



『グリフィンドール!』



割れんばかりの完成が、一つのテーブルから起こった。
帽子を脱がされゆっくりとグリフィンドールのテーブルへ向かう。
向かう途中、ネビルがこちらに向かって大きく手を振っているのが見えた。



「ようこそ、グリフィンドールへ!」



高学年らしき青年に握手を求められ、そっとそれに応じる。
後ろの方では双子の兄弟が「ポッターを取った!」と騒いでいた。



「僕は監督生のパーシー・ウィーズリー。君と同じ寮になれて光栄だよ。」



ご丁寧に自己紹介までしてくれた彼にありがとうと無難に返し、さっさとネビルの隣に腰を下ろした。
ネビルは嬉しそうに「すごいや!僕、ずっと君と同じ寮になれるように祈ってたんだ!」といった。
それに対し、イベリスもそっと微笑んで「これからもよろしく。」と返す。
そこへ後ろにいた人物に肩を叩かれ、今度はそちらに目を向けた。



「私、貴方のこと全部知っているわ。いろいろな参考書を読んだの。
 あなたのこと『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』とかに載っているのよ。
 私はハーマイオニー・グレンジャー。よろしくね。お互い一番いい寮に入れてよかったわ。」



物凄い勢いのマシンガントークを披露してくれた。
若干興奮しているのだろう。
彼女の頬がほんのりと赤い。
あまりの勢いにポカンとしてしまったが、彼女の握手に苦笑と共に応える。

残りの新入生の組み分けも終わり、アルバス・ダンブルドアからの祝いの言葉、
ともいえるようないえないような挨拶を賜り歓迎会が始まった。
全体的に脂っこいものが多かったが、味の方は申し分ない。
途中グリンフィンドール塔に住まうゴーストたちも会話に参加したりと、
なかなか賑やかに歓迎会は進む。

ふと、スリザリン寮のテーブルから視線を感じた。
目が合ったのは例の落ち着いた印象を持つ少年 ――セオドール・ノット―― 。
自分の視線に気付くとは思っていなかったのだろう。
きょとんとして、思わず固まってしまったらしい。
そんな彼に苦笑を返し、さりげなく手を振る。
彼は目を見開き、すぐにそっぽを向いてしまった。
嫌われてしまったのだろうか?

(まぁ、向こうはそのつもりはなくても私に気に入られた時点で逃げ場はないのよねぇ…)

ゆっくりと深く笑みを刻んでいく。
たまたまそれを目撃したであろうゴーストのニコラス卿はギョッとしていたが、見なかったことにするらしい。

賢明な判断である。

元来の自分の性格は十分知っているつもりだ。
困ったことに、欲しいものは手に入れるまであきらめないという粘着質な性を持つ。
性格から考えて自分はスリザリン向きだと思うのだが、入ったのは何故かグリフィンドール。
何かの陰謀を感じないこともない。

歓迎会もつつがなく終了したところで、アルバス・ダンブルドアからのお知らせと
意味深な忠告が全校生徒へとなされた。
そして校歌斉唱を最後にようやく寮へと向かうことになった。


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