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「随分余裕そうなだな。」



マクゴナガル女史はその場を退場してから程無くして
突然隣の生徒に声をかけられた。



「そういう貴方も、大して緊張してなさそうね。」



こげ茶のサラサラしていそうな髪に、灰色の瞳の少年だった。
同い年のはずなのに、自分やネビルに比べても背が高い。
釣り目であまり人を寄せ付けなさそうな雰囲気を持っているのに、
話し掛けてきたのは向こうからなものだから少し意外に思う。



「……別に。ただ、あんたは他の奴らと違って最初から落ち着いていたから。
 俺もそんなに緊張する必要ないのかなって。」

「そう?私も緊張していないわけじゃないのだけれど。人前に出るのは苦手な方よ。」

「ふーん、意外。見た感じ涼しそうな顔してやっていけそうだけどね。」



少年はどこか探るような目つきでこちらを見てくる。
彼は他の生徒に混じって、私の持つ異質ななにかに気がついたらしい。



「少年もあまり物怖じしないタイプに見えるね。」

「それこそ冗談。俺、コレでも性格は内気な方って自他共に認めてるから。」



内心びくびくだよ

などとのたまう少年は何処までが本音なのかいまいち分からない。
年不相応な物言いに比べて、彼の表情は何処かしら幼さを残している。
なんだかちぐはぐで不思議な印象を持たせる少年だ。



「あんた、名前は?」

「組み分けの時に呼ばれるよ。お互い、嫌でもそこでわかることになる。」

「……それもそうだな。」



内気だというわりには、随分と積極的に話し掛け、しかし相手が引くとそれ以上の深追いはしない。
こういうところは十やそこらの子供には出来ない芸当だ。
何だか久し振りに相手に合わせず、無理のない会話が出来て少し新鮮だ。



「一緒の寮になれるといいわね。少年とはまた話してみたいよ。」

「俺も思った。あんた他の奴らと比べて話しやすいもん。」



でも俺ほとんど寮は決まったも同然なんだよね

そう言って再び前を向く少年は、話の流れからして由緒正しい魔法族の家系が多く入るという
スリザリンなのかもしれない。
自分が果たしてどの寮に入るのかは定かではないが、
それを抜きにしてもこうも話のしやすい相手と早く出会えたのは運がいい。



「寮が違っても話し相手くらいにはなってくれるといいな。」

「ああ、それくらいならなれるかもな。でも、あんたがグリフィンドールとかだったら難しいよ。
 俺、学校生活は穏やかに過ごしたいから。」

「それは私も同感。」



こんな調子で他愛もない話に花を咲かせているとマクゴナガル女史が戻り
そのまま新入生を大広間へと引率して行った。



夜の帳が落ち星が瞬く夜空が天井を覆う。
見事なものだった。



椅子に置かれたボロ布のような帽子がひとりでに何かを歌っていたが
鬱陶しい騒音にしか聞こえない。
ようやく歌い終わったかと思えば広間は拍手喝さいに包まれる。
そこでマクゴナガル女史がようやく前へ進み出た。



「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって組み分けを受けなさい。」



アボット・ハンナから始まり、一人ずつ生徒の寮が決まっていった。
上座のテーブルにはアルバス・ダンブルドアを始めとする教師陣が座っている。
先日ダイアゴン横丁を案内してもらったセブルス・スネイプ教授も静かに鎮座していた。
視線を投げかけるも、彼と目が合うことはない。



「グレンジャー・ハーマイオニー!」



聞いたことのある名前にそっと組み分け帽子の方へ目を移す。
栗色のフワフワした癖っ毛をした女の子が丁度帽子をかぶせられるところだった。
流石に緊張していたのか、若干顔色が悪い。



『グリフィンドール!』



帽子がとられグレンジャー嬢は拍手の沸きあがるテーブルへとかけていった。
希望していた寮には入れたのだろう。
嬉しそうに彼女の顔がほころぶ。



「ロングボトム・ネビル!」



前にいたネビルが息を呑むのがわかった。
きっと彼は今、青白いを通り越して真っ白い顔をしているに違いない。
寮を決定するのにしばらく時間がかかったが、最終的に彼はちゃんとグリフィンドールに配属された。
帽子を取られても、彼はしばらく椅子から動かなかった。
見かねた先生が彼の肩を叩いても彼もようやく腰を上げる。
ネビルはそのまま壇上から転げ落ちるようにグリフィンドール寮へと向かった。
自分が獅子の寮に入れた事に未だ実感できずにいるのか、足取りが覚束ない。
移動する彼と目が合ったとき、イベリスはそっと微笑んで祝いの言葉を唇に載せた。



『 おめでとう 』



途端に彼は満面の笑みを浮かべる。
寮の席につく途中、彼もこちらに対して何かを言っていたような気がするが、
周りの喧騒に飲まれその声が届くことはなかった。



「あいつと仲いいの?」

「汽車の中で一緒になってね。いちよう友人一号になるのかな?」

「ふーん。」



儀式の前に会話をした少年はいつの間にか自分の後ろに並んでいた。
私とネビルとのやり取りを見ていたのだろう。



「あいつグリフィンドールになったね。あんた、スリザリンになったらどうするつもり?」

「別に?普通に友人として付き合うだけ。」

「……本気?グリフィンドールとスリザリンだよ?」

「もちろん目立った行動は互いできないだろうけど。
 ホグワーツは広い。場所と時間さえ選べば、会える機会はいくらだって作れる。
 それに、そこまでこそこそする必要性も感じられない。」



案外、人間って自分とその身内意外には無関心なものよ

同学年ならまだしも、他学年の寮まで逐一覚えているものは少ないだろう。
授業や教室移動の時などは言葉を交わせないかもしれないが、ホグワーツで過ごす時間はそれだけだはない。
第一、人の友好関係を広げるのに高々寮の違いが障害になるようでは
これから先人間関係を築くのにきっと苦労する。



「器用な奴。」

「あら、貴方も十分可能だと思うけれど?」

「やろうと思えばね。でもあいつはドンくさそうだから多分いつかばれるよ。」



それに、俺はあいつと仲良くするつもりはないし

そう言って彼は本当に興味もなさそうに視線を組み分け帽子へと戻した。
ちょうど『M』のこの組み分けが終わった頃だった。



「ノット・セオドール!」



真後ろにいた彼が、おもむろに前へと進み出た。



「残念。あんたの名前、先に知りたかったんだけどな。」



彼は小声でそう言って、イベリスの横を通り過ぎていった。
壇上へ向かう少年の足取りはしっかりしており、あまり緊張しているようには見えない。



『スリザリン!』



さして時間も掛からずに決まった彼の寮は、やはり蛇の寮。

(セオドール・ノット、ねぇ……)

面白い子を見つけたと思っていたのに、人生そう上手く行かない。

(まぁ、まだ自分が獅子の寮と決まったわけではないけれど)



そろそろ自分も呼ばれる頃だろう。
組み分けの儀式の中盤だ。
慣れない長旅の生で少し疲れてしまった。
早く終わってくれないかなぁと他人事のように思いながら自分の出番を待った。


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