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「イッチ年生はこっちだ!」



ほの暗いプラットホームに降り立つと、夜の冷たい風が吹きぬけていく。
ホグワーツの全校生徒が一堂に集うホームは人口密度が高い。
その中で、ひときわ大きな人影が声を張り上げていた。

その人物を一瞬目が合うが、あからさまに目をそらされてしまった。
そういえば、彼 ――ルビウス・ハグリット―― とは気まずい別れ方をしたのだったっけ。
私自身はそんなに気にしていない、というよりどうでもいいのだが、彼はやはり何か思う所があったのだろう。

彼の指示に従い、新入生達は湖の岸辺につながれた小船に乗り込む。
乗り込んだのは見知らぬ少女と少年、ネビル少年に私だ。
みんな船の向かう先にそびえ立つ壮大に城に釘付けになっていた。
興奮する3人をよそに、イベリスは静かにこれからの生活に思いを馳せる。

とうとう、この場所に来てしまったのだが未だ実感は湧かない。

『物語』の通りに生きるつもりはない。
だが、心穏やかに過ごす事は難しいかもしれない。
あるはずのない『これから』の知識があるというのは、本当に厄介な事だ。
形の見えない不安だけがまとわりつき、どうにも居心地が悪いのだ。

いっそのこと、『ハリー・ポッター』のように何も知らなければよかった。



「すごいね、イベリス!」



目の前に座っていたネビルが後ろを振り返って話し掛けてきた。



「僕、こんな大きなお城に入るのは初めてだ!
 でも、組み分けの儀式ってどうするんだろう……。
 まさか、ここまで来て魔力が足りないから入学できません、とか、」

「…」



満面の笑みを浮かべていたかと思うと、すぐに瞬と勢いをなくす彼を見て
イベリスは思わず笑いがこみ上げてきた。

彼を見ていると考えてもしょうがない事に頭を悩ませている自分が馬鹿らしくなってくる。



「落ち着いて、ネビル。それはないと思うよ。」

「そうかな……」

「まぁ、仮にそうなったとしたら連絡先教えてくれる?手紙書くわ。」



冗談に聞こえないからやめて!と慌てふためく彼に
イベリスは涼しい顔をして止めをさす。



「なって欲しくない事は、思っていても口に出さない方がいい。
 でないと、本当に起こってしまうよ?」



暗くて確認はできないが、彼はきっと顔色を悪くしているに違いない。
口元を引き攣らせ彼は渋々前を向いた。

船が船着場に到着すると、ハグリットはそのまま新入生を城の巨大な門まで誘導する。
その間周りの子供達は誰一人として口を開かない。



ドン ドン ドン 



常人では出せないであろう音を立てて、ハグリットが門を叩くと扉はひとりでに開いていく。
中で待っていたのはマクゴナガル女史。
厳格そうなその雰囲気は、『漏れ鍋』で始めて出会った時とかわらない。

目が合ったので軽く会釈をすると、彼女は驚いたような顔をしたがすぐに微笑み返してくれた。
それだけで纏っていた雰囲気がふわりと緩むのが分かる。
しかしそれも束の間、すぐにもとの厳格な顔つきに戻ってしまったが。
少し勿体無いような気がする。



「イベリス、あの先生知ってるの?」

「ミネルバ・マクゴナガル女史、ホグワーツの副校長先生よ。入学手続きの時お世話になったの。」

「ふーん……厳しそうだけど、笑った顔見るとそうでもなさそうだね。」



ネビルは先程の彼女の微笑を見て多少緊張がほぐれたらしい。
少し安心した顔をしてマクゴナガル女史のほうを見る。



「……優しかったよ。(私には勿体無いくらい)」

「イベリスがそう言うんなら、きっとそうなんだろうね。」



僕が入る寮の先生だったらいいな

周りの生徒達も、イベリスとネビルの会話を耳にはさんで少し落ち着いていく。
余裕が出来たせいか、興味津々といった感じでキョロキョロと城の内装に目を移していった。

しばらくして、マクゴナガル女史から祝いの言葉と組み分けに関して軽い説明がされた。
少し後ろのほうで呪文を一通り呟く声や、
組み分けが試験のような物だと憶測をして余計な不安を仰ぐ声がしたが
イベリスは気にも留めなかった。
そんな彼女の態度を見て隣にいたネビルも安心したのか、
特に緊張した様子もなく待っていた。



「ところで、このカエルの飼い主の生徒は誰ですか?」



説明をし終えたマクゴナガル女史を見て、後は組み分けが始まるのを待つばかり問い持っていたが
彼女は何処から取り出したのか、生徒全員が見えるようにカエルを持ち上げて言った。
そのカエルに見覚えがある気がしなくもない。

というか、カエルをペットに連れてくる生徒自体珍しいのだ。
自ずと飼い主とやらは決まってくるだろう。



「ト、トレバー?!」



なんで?!荷物と一緒に汽車に置いてきたのに!

そう言って、マクゴナガル女史から慌ててペットであるカエルを受け取る。
組み分け前に同学年の子供たちに好奇の目にさらされ、彼の顔は真っ赤だ。



「正門の前でうろついていました。自分で飼い主についてきたのでしょう。
 カエルにあるまじき行動力ですね。」



マクゴナガル女史は呆れた顔をして、ネビルにそのカエルをそっと手渡す。
急いでイベリスの隣に戻ってきたネビルは情けない顔をしていた。



「組み分けも始まってないのに、もう恥じ掻いちゃったよ。」

「大丈夫よ。ネビルが悪いわけじゃない。」



そう言ってイベリスは静かに彼の手の中にいるカエルに視線を落とす。
恥をかかされたにもかかわらず、ネビルの手つきは何処までも優しい。



「間もなく組み分けの儀式が始まります。身なりを整え、静かに待っていなさい。」



そういうとマクゴナガル女史は部屋を出て行った。


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