21

-----------------------

 両親がいなくて寂しい      ――――― あいつらのせいだ

 両親がいなくて悲しい      ――――― あいつらさえいなければ

 両親がいなくて悔しい      ――――― 憎い

 両親がいなくて惨めだ      ――――― アイツらが、 憎イ







 嘆いて何になる?        ――――― 憎んだって、彼らは帰ってこないよ?







カタン コトン



どれくらい時間がたったのか分からないが、窓からは西日が差し込んでいる。
そろそろ目的地に到着しても良い頃だ。



「Mr.ロングボトムは、お祖母さんや大叔父さんの事好き?」

「、え?」

「家族のこと、好き?」



目の前の少年が、自分と同じ思考回路をしているとは思わない。
大体、精神年齢からして違うのだ(別に見下しているというわけではなく、純粋な意味で)。

一人納得できないことも多々あっただろう。
仕方がないとあきらめて妥協するには、彼はまだ幼い。
それでもとすがってしまうのが、本来の人間の性であると思う自分としては
目の前の少年は良くもまぁひねくれもせず、少し気が弱い所はあるが、素直に育ってきたのだと思う。

きっと大事に、愛されてきたのだろう。



「好きだよ?嫌いに、なれるわけないじゃないか。みんな僕を大事にしてくれる。
 同情とか、そういうんじゃないくて、ちゃんと僕が立派に育つようにいつも思ってくれているから。」



僕は、家族が大好きで、心底そう思えるのは、
きっと幸せな事なんだって、心から思うよ。



ああ、この子は、強い子なんだって、そう思った。
そして見た目以上に『大人』だった。



「そう。私にもね、ちゃんといるのよ。私の事を大切に思ってくてる人たちが。」



不器用で、ひねくれていて、いまいち優しさが感じ取りにくくはあるが。



「寂しくなかったわけじゃない。悲しくなかったわけじゃない。
 ただ、求める事をやめようと思っただけ。」



既に手に入らないモノを嘆いても、どうしようもない。
一般的に幼い子供にとって親とは己の世界の中軸。
それがなくなるということは、自分の世界の崩壊にも等しいわけで、
怖くないはずが、恐ろしくないはずが、ないのだ。
それはいくら『前世』の記憶を持って生まれてきた自分でも、例外ではなかった。



「憎くないのかといわれれば、正直分からない。
 仮に私が『あの人』を憎んでいたとしても、私自身が何かをするつもりは今のところないよ。」



そう、間違っても悪の象徴に立ち向かう『英雄』を演じるつもりはないのだ。



「私にとって両親の代わりになる人たちなんて、きっといない。
 でも、私の世界は何も彼らだけで構成されているわけじゃないから。」



途方もなく崩れ落ちそうな時に、周りが見えるように顔を上げさせてくれたのは彼ら。
そして私は、自分の世界を再構築すべく、柱となるべきものを一つ一つ作っていった。



「私が泣いてるとき側にいてくれたし、卑屈になっているときはちゃんと怒ってくれた。
 喧嘩もしたし、中々濃厚な時間をお互い共有してきたよ。
 貴方の家族とは随分違うかも知れないけれど、私とってはとても大切な人たち。」



もう壊されないように、失わないように ――――― 慎重に、頑丈に



「彼らの思いをちゃんと受け止められるようになるのに、時間は掛かっちゃったけど待っててくれたから。
 これ以上待たせちゃいけないなって思ったの。」



お互いに触れて、言葉を交わして、気遣って
少しずつ分け与えてきてくれた、温かさ



「もう、失いたくないから。」

「それに、私が何か無茶をして怪我でもすれば、彼らに心配をかけてしまうしね。」



悲しませたくないのよ

夕暮れの茜の光がコンパーメントの室内を包む中、イベリスは静かに笑う。
その微笑みは何に向けられたものなのか、ネビルには分からなかったが
到底自分の理解の及びそうにはない彼女の思考に、ただただ圧倒されているだけだった。



「…僕は、間違って、いるのかな?」

「自分の両親、家族を思う姿勢に間違いも正解もないよ、きっと。
 ただ、私と君の考え方に違いがあっただけの話。
 その違いは些細なものなのだから、君がそこまで気にする必要はない。」

「…本当?」



未だ不安に揺れる彼の瞳を目に写しながら、イベリスはコロコロと笑う。
そんなに恐れる必要はないのだと、相手を安心させるかのように。



「だって君は、君が思っている以上に家族のことを大事に思っている。
 君にとっての当たり前な姿勢は、他人にとってはそう簡単にできることじゃないから。
 正直で、真っ直ぐで、とても優しい。それこそ羨んでしまうくらいにね。」



イベリスからの自分の評価を聞き、いまいち情報を処理し切れなかったのか
ネビルはポカンとしていた。
普段あまり褒められないのか、はたまた自分に自信がないのか、
とにかく、イベリスからの賛辞は彼にとって聞きなれない物だったらしい。



「Mr.ロングボトムは、もう少し自分に自信を持って良いと思うよ。」



そう言ってイベリスが再び彼に笑いかけると、
ネビルは途端に顔を真っ赤にして視線を泳がせた。



「あ、あの!」

「うん」



未だ赤みの取れない顔を意を決したように上げて、彼は言葉を続ける。



「僕の名前は、ネビル・ロングボトムです。」

「さっき聞いた。」

「うん、そうなんだけど。」



おどおどした態度は相変わらずだが、
真っ直ぐこちらを見つめる視線だけは確かなもの。
自分にはないものだと思った。
その純粋さが、やはり少し羨ましい。



「僕と、友達になってください。」



一世一代の告白か何かをいわんばかりの剣幕で言い切った彼の申し出を
イベリスが断る理由はない。

(やれやれ、いまさらこんな青春くさいことをするとは思っていなかったな……)



「喜んで?」



そっけない返事のわりに、彼女の瞳は悪戯心に満ちたもので酷く楽しげだった。
それに対してネビル少年も満面の笑みを浮かべる。

名前で呼んでくれると嬉しいなという彼の提案で早速お互いの名前で呼び合う二人。
その様子を少年の隣でひっそりうずくまっていたカエルがジッとみていた。


[] | []

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -