01

-----------------------

※残酷・グロテスクな表現が若干使われております。苦手な方はご注意ください。















『私』について自己紹介をしたいと思う。


年齢28歳 性別は女性 独身 東京在住

  大手商社に就職。OLとして日常を過ごして6年と少し。

両親は既に他界。近所付合い、可もなく不可もなく。

交友関係は高校、大学時代の友人や今の会社の同僚たちとのみに行くぐらい。

これといって特別な事もなく普通な人生を歩んできた。

このまま結婚して、子供を生んで、ささやかな幸せをかみ締めながら年を取って、

家の寝床でかわいらしい孫たちに看取られ永眠。




――― そんな普通でありきたりで、それでも確かに幸せといえる人生を送りたかった。




《□■株式会社立てこもり事件》




犯人は元同僚だった人。

面識はなかったが、不当なリストラに遭いそれが事件の動機らしい。

腰に自作の小爆弾を巻いて、手には刃渡り27cmの包丁を持って立てこもった。

私を含め、計5人の人質を取って。




事件の結末は最悪のものだった。




犯人は要求をなかなか聞き入れなかった会社側に完全にキレ、何を思い誤ったのか

無差別集団自殺を試みたのである。




「もう、お終いだ ――― 」




犯人のうつろな瞳に映った自分は、嫌味なほど冷静な顔をしていた。




『 アァ、終ワッタナ 』




自分はあまり穏やかな死を迎えられそうにない、と。




『苦しいのは、イヤだなぁ。』




結構のんきな事を考えていたような気がする。




犯人は持っていた包丁で一人の女性を刺し、その女性を地上19階の高さから








落トシタ。








女性は、多量出血及び全身強打、内臓破裂 ―――― 即死だった。








思い描いていた死とは程遠い。

そんな私の幕引き。




死後の世界とか、そういうのはあまり信じちゃいない。




だからといって、こういう状況は ――――




「リリー、リリーッ! あぁ、何か不便な事はないかい?
 痛いところは? 君はゆっくり座っていればいいんだよ?!
 さぁ、後の事は全部僕に任せて!」


「ありがとう、ジェームズ。でも、私が今一番必要なのは、安息と静寂よ。
 貴方が黙って大人しくしてくれれば、全てすべからく手に入るのだけれど?」


「あぁ、そうなのかい?僕は君の夫だ。君の欲しい物を直ぐに手に入れて見せよう!
 そうだとも!僕は有限実行をモットーとする男だからね!!」


「リリー、お前よくこんなの毎日耐えられるな……
 ストレスとか平気か?体にに良くないんだろ?そういうの。」


「むっ?シリウス!
 そうさ、ストレスはリリーにとって禁物なんだよ?!
 余計なことをして彼女の体に何かあったらどうしてくれるんだい?
 さぁ、離れて、今すぐ離れてくれシリウス。半径1m以内、リリーの傍に近寄らないでくれるかい?
 君のヘタレがうつってしまう!!」


「うつるかよ!!そんなもんッ。てか、俺はヘタレじゃねぇぇッ!!」


「あぁ、まったく、シリウスがまた自滅しているよ。
 毎回毎回、あの2人よくあきないねぇ。ところで、本当に大丈夫かい?リリー。」


「ありがとう、リーマス。私は大丈夫よ。
 ジェームズのことは大目に見てあげてくれるかしら。あの人、あれでも不安でしょうがないのよ、きっと。
 初めての、子供だから。」


「はは、まるでジェームズの母親だね。本来なら、君が一番不安なはずなのに……。」


「ふふ、そうね。でも、こうやって騒いでくれれば、少しは気がまぎれるわ。
 それなりに楽しませてもらっているから。ただ、この子が五月蝿く思ってなければいいのだけれど。」




こういう状況は、まったく想定していなかった。




結論から言えば、私は所謂、転生、をしたのだろう。

ジェームズ・ポッターとリリー・エヴァンズの子供として。

今はやがて自分の母親となる人物の、お腹の中にいるらしい。






そして、父親となる人物が本当に五月蝿くて仕方がない。






「身重な女性をひとりを放り出して、奴はいったい何をしているのだ?」


「ふふ、うるさくて、抜け出してきちゃった、四六時中かまってくるんだもの。
 たまには、ひとりになりたいわ。」


「ならば何故我輩のところへ来る?望みどおり、ひとりでいればよかろう。」


「あら、貴方こそ『身重な女性をひとり放り出す』気?」


「そうやっていつも上げ足を取る・・・・・・本当に気が強いな、お前は。
 だいたい、2人でいるところを奴に見られたらどうするつもりだ?我輩は面倒ごとはごめんだぞ。」


「うふふ、なんだか、不倫の現場みたいな台詞ね、セブルス。」


「・・・・・・リリー、ふざけるのはよせ。」


「・・・冗談よ。ただね、最近無性に貴方が入れた紅茶が飲みたくなるのよ。」




バリトンの落ち着いた男性の声。

今の2人のほうがよっぽど夫婦らしい。

あのうるさい男にはない穏やかな雰囲気があって、私の心も落ち着く。




「きっとこの子も気に入ったのね、セブルスの紅茶。」


「ふん、親子そろって・・・物好きな奴らだ。」


「あら、貴方の淹れる紅茶は本当においしいのよ?私は好きだわ。」




時々、こうやって2人で会うときがある。

この男性の淡い気持ちに気付いていないはずがないのに、あえて合おうとする我が母君は

案外悪女なのだろうか。




「名付け親・・・」


「・・・なんだ、急に。」


「シリウスがね、なるんですって。この子の名付け親に。」


「・・・それで?それが我輩に何か関係でもあるのかね?」


「ジェームズもそうなんだけれど、あの人たち、生まれるのは男の子だって言い張ってて・・・」


「・・・だから何だ。」


「私は、女の子だと思うのだけれど、」


「・・・・・・」


「女の子の名前は眼中に入れてないのよ。」


「・・・・・・」


「ねぇ、セブルス「断る。」・・・まだ何も言っていないじゃない。」


「お前こそ、いったい何を考えているのだ?よもや、我輩に頼むなどと!・・・我輩には、そんな資格などない。」


「 でも、貴方は言ったわ。『守る』と。 」


「それとこれとは別だ。お前達の子供だろう?亭主が使えんのなら、お前がつければ良い。」


「私じゃダメよ。」




嫌にはっきりとした物言いが、印象に残った。




「ダメなのよ。ずっと、そばに居てあげられるか、わからないから。」


「・・・それは、我輩とて同じだ。」


「でも、名前を付けるということは、命名者の力を分け与えるということよ?最高のお守りになると思わない?」




「 ―――― 」


「 え? 」


「一度しか言わん。」


「・・・そう、それがこの子の名前なのね。」


「生まれてくる子供が、女子だったらだ。」


「絶対女の子よ!」


「・・・ふん。」


「 ―――、やっと貴方に会えるのね。」






暗い暗い水の中

聞こえてくるのは 優しい声 別の鼓動

こちらが泣きたくなるような必死な思い

受け止めきれないほどの愛情






神とか、そういうのは信じちゃいない。




だが、もしいるのなら

文句の一つや二つじゃ収まらない






『何故、《私》なの?』




この居場所は《彼》のものなのに

返さなきゃ

あの人たちが報われない

注がれた思いが報われない




享年28歳 性別は女性 独身 東京在住 いわゆる一般人だっだ前世の『私』






イベリス・ポッター


0歳 性別は女児 イギリス生まれ いわゆる今世の私

《ハリー・ポッター》の成り代わり





やめて欲しい マジで




私は

私は

私は




ただ普通な人生を送りたかっただけなのに




こんなの望んじゃいなかった。


[ ] | []

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -