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控えめにこちらの様子を伺ってくる姿は



「あ、あの……」

「何か?」



小動物を連想させるそれで



「、えっと、他のコンパーメント、どこもいっぱいで……」

「うん」

「えっと、…い、一緒に使わせてもらっても、いい?、ですか?」



ずいぶんと可愛らしく見えた。



「ええ、どうぞ。」



これが魔法界では唯一といっていいほどの『親友』と呼べる、彼との出会い。







カタン カタン カタン



電車の揺れる音以外には特に目立つ音のしないコンパーメント内。
かたやマイペースに、手持ち無沙汰に本へ目を通す少女。
かたや、かわいそうなくらいガッチガチに緊張して、まったく動くことのできていない少年。

少年はちらちらと少女に視線を投げかけるが、少女のほうはまるで気にも留めていない。
気付いてはいるのだろうが、あえて無視を決め込んでいる様子に
少年は途方にくれしまって泣きそうですらある。
どうやら少女、イベリス・ポッターの出す独特な雰囲気のせいで、少年は非常に気まずいらしい。



ギュエェェェ



そんな空気を見事に一刀両断する奇妙な泣き声がした。
一瞬思考が停止するも、何事かとイベリスは音の原因を探した。



「……カエル、」

「ト、トレバー?!」



それはでっぷりと見事な体格をしたヒキガエルだった。
いつの間に、どこから出てきたのか座席から落ちそうになってジタバタしている。
少年はあわてたようにそのカエルを抱き上げた。
その子のペットなのだろう。
確か、入学証明書に同封されていた紙に持参していいペットのなかに
カエルがあったなぁ、とイベリスは思い出していた。
この子のカエルを抱き上げる手つきからして、結構大事にしているらしい。
流行に敏感な、この年頃の子供にしては珍しいと思った。
たしか、ペットで人気があったのは、フクロウかネコだったと思うのだが。



「貴方のカエル?」

「へ?!あ、うん!」

「めずらしいね、カエルがペットって。それともこっちではそれが普通?」

「え、あ、…ううん。たぶん、僕以外にはあんまりいないと思う。
 おばあちゃんが学生時代のときは流行ってたらしいけど……。」

「ふーん。」

「あ!ご、ごめん!もしかして……カエル、苦手だった?」

「別に?カエルなら家の近くにいっぱいいたし、扱いにも慣れてる。」



そんなに気を使わなくてもいいよと言えば、目の前の少年は安心したかのように顔をほころばせた。
ついでに緊張もほぐれたのだろう。
喋ったことで少し余裕が出来たのか、今度は少年のほうからイベリスに話しかけてきた。



「君も、新入生?」

「ええ、そうよ。」

「良かった!僕もなんだ!」



そう言ってニコニコ笑い始める。
親元を離れて、見ず知らずの人たちとこれから生活を共にするのだ。
色々と不安もあるのだろう。
堰を切ったようにその少年はいろいろな話をし始めた。
なんだか必死なその姿に、イベリスの口角がほんの少しだけ上がる。
今まで自分の周りにいなかったタイプだ。
心根が素直で、性質も穏やかな子なのだろう。癒し系のオーラが半端ない。
どこぞの腹黒似非紳士や、性格が根底からとまでは言わないが、
随分とひねくれてしまった従兄殿とは比べものにならない。



「君ってマグル、なんだよね?」

「いちよう、育ちはね。入学証明書が届いたときは、家で大騒ぎだったよ。」

「はは、そっか。僕はいちよう魔法族の家だけど、僕だけ魔力が全然でなかったんだ。」



そう言って彼は、情けなさそうに眉をハの字にして自分のことを話し始めた。



「アルジー大叔父さんはいつも僕に不意打ちを食らわせて魔力を引き出そうとしてたんだけど、
 8歳になるまでなにも起こらなくて……。おかげで本当に危ない目にあったよ。
 でも、僕に魔力があるって分かって、みんな本当に喜んでくれたんだ。おばあちゃんなんか、うれし泣きしちゃってさ。」



本当に家族のことが好きなのだろう。
あって間もないが、それでも彼の家族への愛着は容易に受け取れる。



「ホグワーツの入学証明書が届いたときのみんなの顔、見せたかったなぁ。
 トレバーは入学祝にアルジー大叔父さんが買ってくれたんだ。」

「そう、良かったね。」

「ちょっぴり時代遅れのプレゼントだったけどね。
 でも僕にとっては初めてのペットだから、絶対ホグワーツに連れて行こうって決めてたんだ。」



トランクの中でつぶれやしないか心配したけど、大丈夫そうだね

そう言って、大事そうにカエルを撫でる少年は可愛らしかったけれど
カエルをトランクの中に詰めて運ぶのはいかがなものかと、正直思う。
しかしそれは胸のうちにしまっておこう。



「ご両親も随分と喜んだんでしょうね。」

「……、うん、そうだね。そう、だといいなぁ…。」



あ、まずい。

そう思ったときにはすでに遅かった。
彼にとって両親の話題は禁句だったのだろう。
先程の嬉しそうな表情はすっかりなりを潜めてしまった。
こっちに気を使って、無理に笑おうとしている姿はどこか痛々しい。

そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに。

少年はいつの間にかうつむいてしまって、再びコンパーメントの中に気まずい空気が流れる。
イベリスは、さてどうしようかと次に出す言葉を選びながら窓の外に視線を移した。


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