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やっとこさ荷物を汽車の中に押し込み、手ごろなコンパーメントを見つけた。
出発までには結構時間があるせいか汽車の中はガラガラだった。
手持ち無沙汰にトランクから買ったばかりの杖の入った箱を取り出すと、イベリスはそっと杖を取り上げる。

思い返せば、変なモノに好かれてしまったとため息がこぼれた。









「君、いったい何なんだろうね?」



窓枠に腕を置き頬をついて、イベリスはジトリと顔の横にいるモノをにらみつけた。



【主は、吾のことが気に入らぬようだな。】

「それ以前の問題でしょう?」



勝手知ったる顔でイベリスの肩に止まる、神々しい鳥。



【不死鳥である吾が身を欲する人間は多いというのに。やはり不思議な童女だな、吾が主は。】

「うるさいわね、厭味?私がどういう存在か知っててそういうこというんだ。」

【そうむくれるな。前世があろうとなかろうと、永き時を生きる吾にとって主は赤子も同然。気にすることでもあるまいよ。】



そう言って目を細めるその鳥は、まるで笑っているようだ。
呆れるほど人間らしい反応を返してくるこの魔法生物を、どうすればいいのやらイベリスはほとほと困っていた。



ことは、出発日の2日前にさかのぼる。



そろそろ雑多に置かれているこの大量の荷物をまとめなければいけない。
重たいものから順に詰めていくと、最後に残ったのはあの杖。

白昼夢で見たあの不死鳥は、一体私に何を伝えたかったのか。

箱を開けて改めてみても、今は本当にただの杖だ。
むやみに振り回そうとは思わないが、学校で杖を振るたびにあのような派手な演出をされてしまっては少々困る。



「あなたも、持ち主に似て厄介な杖だね。」



そう言って、壊れ物を扱うかのように杖を持ち上げると
いつの間にか杖は炎に包まれ(といっても何故か熱くはない)、
気付いたときにはすでにこの鳥が目の前にいたのだ。



「……何?あなた。」

【吾を前にしても動じぬか。なかなかに面白い童女だ。】

「貴方、もしかして、さっきの杖?」

【さよう。この姿はその杖に入る前の吾の姿だ。】

「……あの白昼夢を見せたのは、貴方ね?」

【少しばかり違うな。アレは吾の想いの残留にしか過ぎぬ。行き場のない想いが主の心に入っていったまで。】

「じゃあ、貴方は?」

【吾はその杖を創りし者に、封印された魂。体は持たぬが、正真正銘、人間が不死鳥と呼ぶ存在だ。】



その返答を聴いて静かに頭を抱えるイベリスを、先の不死鳥と豪語した鳥は静かに笑った。

つまるところ、この無駄に派手な鳥はイベリスに自分の契約者になってほしいということだった。
魂と体が離れている自分は非常に不安定な状態。
今はこの杖を寄り代に今世にとどまっていられるが、正直それも時間の問題だ。
手っ取り早く問題を解決するには、新たな寄り代となれる者と契約をすればいい。









「だからって、こんな年端も行かない子供を選ぶことはないでしょうに。」

【永年、吾にふさわしいものを探し続けてきた結果だ。この目に狂いはあるまいよ。】

「それに、契約するなら本人の意思を確認してほしかった。」



そう、あろうことかこの自己中な鳥は、勝手に契約とやらを完了してしまったのだ。
オリバンダーの店でこの杖を握ったときに、それはすでに遂行されたらしい。
いっそのこと杖ごと折ってしまおうかとも考えた。



「何でそんなに縛られて生きたいのよ?」

【フム、縛られるとな?】



不死鳥は何を言いたいのか分からないらしく、頭をかしげた。
見た目には可愛らしいといえないこともないが、いかんせん中身がアレだ。

似合わない。

内心、ウゲッと若干引きつつ言葉を続ける。



「……綺麗な朱金ね。空を飛べば、昼の青に、夜の藍に映えるでしょうに。
 わざわざ自分から一箇所にとどまるなんて。不死鳥って孤高の存在じゃなかったっけ?」



まるでヒトみたい。
森羅万象に囚われず、己のあるべき姿を際限なく繰り返していく、
そんな人知を超えた存在だと思ってた。



素直に思っていたことを言えば、目の前の不死鳥は黙り込む。
その目をもぞきこんでも、ソレの胸のうちは見えやしない。
もともと獣や鳥というものには表情がない。
仕草はあるが、人のように百面相は出来ないのだ。
ゆえに何を考えているのか見当もつかない。



【主が思うほど、我々はこの身一つで生きてはいけぬよ。】

【我々はヒトのいう神ではない。何かの繋がりがなければこの世界に留まることは不可能。】

【確かにヒトより永い時を生きるが、それはそれだけ世界と繋がりがあるということ。】



そして吾は今一度世界に留まるため、そなたと繋がりを結ぶことにしたのだ



いろいろと、正面切っていわれるとこっ恥ずかしい台詞を聞いたような気がする。



「……傍迷惑な。」

【諦めろ。すでに吾と主の縁は繋がった。今更断ち切ることは出来ぬ。】

「用済みになったら真っ先にぶった切ってやるから、覚悟してなさい。」



そうか、それでは楽しみにしていようかなどと軽口を叩く不思議生物(?)に杖に戻るよう催促する。
そろそろ出発の時間だ。
他の生徒がこのコンパーメントに入ってきてもおかしくない。
杖をトランクの中にしまい、暇つぶしに持ってきた本を開く。



  ガラガラガラ ………



恐る恐るといった感じで扉が開かれたのは、汽車が出発してすぐのことだった。


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