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『 9と3/4番線 』
どうでもいいが、何故このような中途半端な数にしたのか。
おかげでライルには鼻で笑われてしまった。
ちくしょう、憶えてろよ?
ガラガラと、10歳くらいの細っこい女の子が一人動かすには大きすぎるくらいのカートを
押すのは、イベリス・ポッターその人である。
今朝も、駅まで来るのに叔母であるペチュニアと一悶着あった。
それでも何とかあれやこれやと丸め込み、この場に到着したわけである。
「やっぱりリリーの子だわ、あのこと同じことを言うのね!もう、知りません!!」
そう言ってそっぽを向いた彼女は、すでに涙声だった。
さすがにそこまでされるとこちらも罪悪感が沸くわけで、もはや苦笑するしかない。
言い訳にもならないが必ず休暇には帰ってくることと、怪我や病気はしないようにすること、
それから、毎週ちゃんと手紙を出すことを約束する。
「行ってきます、叔母さん。必ず帰りますから、ね?」
「……」
「ダドリーも、体に気をつけて。おばさんのことしっかり支えてあげて?」
「お前なんかに言われるようなことじゃないよ。今度母さんを泣かせてみろ、ただじゃ置かないからな?!」
なかなかに頼もしい台詞である。
我侭し放題のあのダドリー坊ちゃんがここまで成長したなんてと、場違いにも感心してしまった。
「うん、わかってる。休暇に帰ったら、ダドリーの好きなお菓子作るね。」
「……本当だろうな?」
そしてやっぱり、食べ物で釣られてしまう我が従兄殿のことが心配になってしまう。
きっと今の自分は苦笑しているのだろう。
「お待たせしました、叔父さん。駅までよろしくお願いします。」
叔父は車の中で絶えず不平を漏らしていた。
それを聞き流しながらイベリスはこれからのことを考える。
今回のことで、皆に要らぬ心配を掛けてしまった。
そのことがいつまでも自分の胸のうちに引っ掛かっていることを見ると
思いのほか周りの人たちとの関係が深いことに気がつく。
(あまり、無茶はできないなぁ……)
自分のことを心配し、泣いてくれる人がいる。
その人達のためにも、自分のためにも、危険なことには関わらない、首を突っ込まない、オールシャットアウトだ。
(はたして、どうなるのやら。)
手探り状態のこれからに、柄にもなく不安になった。
その思いを断ち切るように、叔父の車の扉を閉める。
バンッ
「それじゃぁ、行ってきます叔父さん。帰りの際は、どうぞ気をつけて。クリスマス休暇には帰りますから。」
「ふん、ふてぶてしいお前のことだ。よっぽどのことがない限り、心配はないとは思うが
何か問題でも起こしてみろ。すぐにでも連れ戻して、一生押入れ生活だ。わかったな?」
正直、それは勘弁してほしい。
だがこのとげとげしい言葉も、この人の精一杯のものなのだろう。
そう思うと、甘んじて受け取っておくしかない。
そして冒頭のように、一人重たいカートを押しながら目的のホームへと向かうのである。
(さて、入り口がどこかにあるはずなのだけれど…)
前世での、懐かしい記憶をたどりながら前に進む。
自分のこの曖昧な記憶が、いったいどこまで通用するのやら。
主要な出来事は憶えていても、その仮定などはすっぽり抜け落ちてしまっている。
もう少し鮮明に憶えていたなら、この漠然とした不安も抱かずにすんだだろうか?
「あ、……」
少し離れた駅のホームの前にとどまっている大荷物の集団が目に入る。
そしてすぐ後に、その集団のうちの一人が柱の中に消えていった。
おそらく、あそこから例のホームにいけるのだろう。
出発時刻まで、時間が結構あったから人はあまりいないだろうと思っていた。
あの団体がいて、本当に良かった。
最後の一人が柱へ消えていくのを見て、自分もそっとその後に続くことにする。
一瞬、本当に大丈夫なのかと怖かったが、ぶつかったときはそのときだと腹をくくる。
足早に目の前の柱へとカートを走らせる。
するりと、思っていた以上にあっけなくすり抜けた先には、真っ赤な機関車が鎮座していた。
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