15

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「いやはや、なかなかどうして。傑作じゃないか。」



オリバンダーの店を出た後、もう用は済んだといわんばかりに大人二人はイベリスの前を歩いていく。
そして何故だか分からないがが、シルバーブロンドの彼はいやに不機嫌だった。



「まるで安っぽい英雄ものの舞台のようだね。何もかもがあつらえてあるようなこの用意周到さ。
 ハハッ!何かの陰謀さえ感じるよ。」



彼の後ろにいてよかったと、しみじみ思う。
見えない顔はきっと歪んだ笑顔をかたどっているに違いない。
後ろにいるにもかかわらず、彼の殺気だった雰囲気は痛いくらい感じられるのだ。



「ヘルゼイン、もう用は済んだろう。コレも仕事だ、そろそろ茶番も終りにしてとっとと帰るが良い。」

「えぇ?だって、これからイベリスちゃんをロンドン駅まで連れて行くんだろう?僕もそこまで付き合うさ。」

「……ならば今すぐ、その物騒なものをなんとかしろ。 彼女は、  まだ 子供だ。 」



そこではたと気がついたように、ベゼル・ヘルゼインは動きを止める。



「……あぁ、うん。わかっているよ。」



ばつが悪そうに、そういってちらりとイベリスを見やる彼は

酷く悲しげな瞳の色をしていた。



「、ごめん、イベリスちゃん!僕、用事を思い出したよ。
 本当は駅まで見送ってあげたかったんだけど、出来そうのないや。」



挨拶代わりのようにガシガシと無遠慮にイベリスの頭をかき混ぜる。

まるで先程の自分の瞳を見られたくないかのように、

隠すように、

誤魔化すように、



「『一つ眼』にはいつでもおいで。君なら、歓迎するよ。」



そういい残して、雑多な人ごみの中に消えていった彼の背を見て思う。



(挨拶くらい、させてくれたっていいのに……)

「嵐のような人ですね。」

「放って置け。昔から浮き沈みの激しい奴なのだ。」



暗に気にするなといいたいのだろう。
さりげなく気を使う隣の男は、どこか昔を思い出すかのように
ヘルゼイン氏の消えていった方向をぼんやりと見ていた。
言葉数が少ないことは静かで嫌いではないが、意思疎通が難しいのが難点だ。



(事情を聞いたところで、素直に教えてくれそうに無いけれど、)



「……いくぞ、もうだいぶ時間が過ぎてしまった。」



もう、先程のように手は引いてくれないのだろう。
少しだけ、イベリスを受け入れてくれた彼の心の扉は
最初の時と同様に、またしっかりと閉じられてしまった。

しかも今度はご丁寧に鍵までかけて。



「我輩の仕事はここまでだ。後は家のものにでも迎えに来てもらいたまえ。」



ついさっきまで側にあった体温が急速に冷えていく。



「それから、我輩はこれから君が通うことになるホグワーツで教鞭と取っている。
 スリザリン寮の寮監だ。君が我らの寮に来ることは、まぁまずないとは思うがね。」



自分とお前は違うのだと、痛々しい程はっきりとした境界線を引くように



「どちらにせよ、次に会う時は一生徒と一教師の間柄だ。
 今日此処で会ったからといって、変な期待はしないように。」



明らかな、疑いようのない拒絶。



「問題を起こせば、すべからくそれ相応の処罰を下す。」



それをほんの少しだけ、寂しいと感じつつも、
イベリスは仕方がないと自分を納得させるかのようにうなずいた。



「……さぁ、着いた。もう行きたまえ。」



最後までその本心を汲み取ることは出来なかった。
もともと自分の心の内を隠すのがうまい人なのだろう。
早く帰るようにと背中を押されては、もうこれ以上この人と一緒にいるわけにはいかない。
最後にと思い振り返れば、意外なことにセブルス・スネイプはまだその場にいた。



「…何かね?」

「いいえ、特には。どうぞ気をつけて。ホグワーツでお会いしましょう?スネイプ教授。」



苦笑とともに挨拶を残してその場を一人で去る少女を、セブルス・スネイプは静かに見送る。
その表情は何故か奇妙なものを見る顔をしていた。



「……性格は、両親には似ておらんようだな。」

(最後まで、なにも聞かなかった……)



普通のアレくらいの子供なら、未知なる環境に対し畏怖や興奮を覚えるもの。
特にあの男の血を引いているのなら、その手の感情に強く支配されているだろうと思っていたのに。
色々しつこく質問をされるのだろうと、どうやってそれらを切り捨てようかと
あれこれ考えていたのだが、肩透かしを食らった気分だ。



「変わった娘だ。」



うるさい子供は嫌いだ。
理屈がまったく通らない生き物だから。
そういう意味では、イベリス・ポッターという少女は扱いやすいのかもしれない。
それとも単に自分のおかれた状況を、未だはっきり分かっていないということなのか。

あるいは……



考えを振り払うかのように、セブルス・スネイプはその場から文字通り姿を消した。


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