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 アァ、ドウシテ


これは夢だ。


 ドウシテ 置イテイクノデスカ?


これは、あの不死鳥が見せる白昼夢だ。


 一緒ニ居ヨウト オッシャッタデハアリマセンカ


これはあの子の記憶。


 自由ヲ奪ワレヨウト


これはあの子の、残像。


 羽根ヲモガレヨウト


唯一だったのだ。


 タダ 側ニイラレルダケデ良カッタノニ


あの子の唯一の人を、世界が、時間が、奪ったのだ。


 返シテ


無駄だと知りながら、足掻いた。


 返シテ


それでも、やはり彼のヒトは戻らず、
彼のヒトと離された時間だけが、唯、虚しく過ぎていく。

独り残されたまま。

戻ることも、進むことも、出来なくて。
ただただ、彼のヒトへの思いだけが無意味に積もっていく。


 悲シイ 哀シイ カナシイ 寂シイ


その思いに押しつぶされて、この子は消えてしまったのだ。
その思いを残し、この子もまた、いなくなってしまったのだ。


 悲シイ 哀シイ カナシイ 寂シイ


そして、残されたその思いは消えることなく
今までずっと、独り泣いていたのだ。


 悲シイ 哀シイ カナシイ 寂シイ  ―――――  愛シイ



『 ――――― アナタも、置いていかれたのね…… 』





「ブラボー!素晴らしい!」



オリバンダー翁の声を聞いて、ようやく目が覚める。
視界に映った自分の手を見つめながら、この杖の芯に使われている羽根の持ち主が
先程の不死鳥なのだと納得した。



「いやはや、まさかこの杖に選ばれるとは……」



包装のためにいったん返された杖を撫でながら、オリバンダー翁は一人つぶやく。



「この杖はなかなか強情でしてな。長年多くの人が試したが、持ち主は誰一人として現れなかった。
 この店の先々代の最後の作品じゃ。」



『先々代』

なんとなくだが、その人があの不死鳥の主人であり、思い人であるような気がした。
確証はないが、だからこそこの杖は、長年この店を出ようとしなかったのかもしれない。
もしそうなら、ここは彼らの大切な思い出の場所なのだろうから。



「もしかすると、この杖は貴女を待っていたのかも知れん。」



包装し終わった箱をイベリスに手渡しながら、彼は静かに語った。



「この杖に使われているイチイの木、これもまた貴女に縁のあるものなんじゃよ。」

「その木からは、たった2本の杖しか作られておらぬ。貴女の杖と、そしてもう1本だけじゃ。」

「34センチもあってな、強力な杖じゃった。悲しいことじゃが、そう、貴女のご両親の命を奪った杖じゃ。」

「杖は持ち主を選ぶ。あの杖が世に出て、何をするのかワシが知っておればのう……。」



彼の後悔と哀れみで染められた瞳に、自分の姿が写るのが見えて吐き気がした。
ずいぶんとまぁ、好き放題言ってくれたものだ。
こんな、【悲劇のヒロイン】のような扱いを受けたのは、【イベリス】にとって初めてだった。

 そんな余計なもの、私はいらない。
 私は、ただ、好きな人たちのとなりで、つつましく過ごせればよかった。
 煮え切らないこの気持ちをどう扱えばいいのか。

包み終えた杖を受け取って、代金の8ガリオンを翁に渡した。
そういえば、このお店に入ってから一度も喋っていないような気がする。
無愛想な子供棚とおもわれたかもしれないが、別にいいと思った。
どうやらこの老人のことは、あまり好きになれなさそうだから。


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