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「何故、貴様が、ここ、に、いる?!」

「アハハ!!本当に来たよ!しかも、君走ってきたの?」

「ッ、話を聞け!全く、貴様は、昔から、いつもっ、…ゲホッ」

「アハハハハハ!」



可笑しくて仕方ないのは分かったから、肩を連打しないで欲しい。
痛いではないか。

そう思って、そっと体を引く。

そうしたら彼は、バランスを崩してみっともなく転びかけた。
ざまぁみろ。
そのまま転んでしまえばよかったのに。



結局、私が転んでセブルス・スネイプとはぐれてしまった後、
彼も必死になって探したのだと言う。
思っていた以上に、見つけるのに時間がかからなかったのは、
やはり私があっそこで動かずにいたかららしい。
彼は、私の怪我を負った膝を見つけ、盛大に溜息を落とした。
無言で杖を出し、何かを呟いたかと思うと開いていたはずの傷がゆっくりと塞がっていく。
先程の痛みとは、また違った熱さに、ジンワリと侵食された。



(あったかい……)



他に怪我は?と聞かれおもむろに掌を差し出すと、馬鹿者!と怒鳴られた。
彼が思っていたよりも、怪我の具合が酷かったらしい。



その後、ベゼル・ヘルゼインの申し出により(無理矢理)休憩がてら、適当なカフェへと誘われた。
看板には、『“ 一つ眼 ”ノクターン横丁 』と書いてあった。

子供をこんなところに連れてきていいのだろうかと疑問に思ったが、
口うるさいであろうセブルス・スネイプが何も言わないところを見ると、そんなに危険ではなさそうだ。



「それでさ、聞いてよ。僕が案内してあげようかって言ったんだけど、
 ここで待つって言って聞かなかったんだよねこの子。」

「賢明な判断だ。貴様、学生時代に同じような手口で下級生を連れまわして、
 挙句の果てにはそのまま放置し泣かせただろう。」

「アハ!懐かしいなぁ。その子、その後どうなったんだっけ?」

「……トラウマになってしばらく一人で行動できなくなっただろう、覚えていないのか?」



ああ、そういえばと、したり顔で笑うベゼル・ヘルゼインの隣で、
呆れたようにため息をつくセブルス・スネイプ。
この人も随分とはた迷惑な学友を持ったものだ。
あの時ついていかなくて良かったと、心底思った。

ちびちびとアイスココアを飲みながら、あとの買い物はなんだっけと思案する。
制服は揃えたし、その隣で教科書も買った。
鍋やら望遠鏡やら重たい物も済ませた。
あと買ってないのは、杖くらいだ。



(ペットは…、居なくてもいいか。)



そんな事を考えながら目の前の2人を見ると、学生時代の話に花を咲かせているらしかった。
片方が一方的に話し掛け、それを振り払おうとしても相手のペースに飲まれて行くもう片方。
なんだかんだ言って、楽しんでいるのかも。

しばらくすると、カウンターの向こうから初老のマスターがトレイに何かを乗せて
こちらへとやって来た。
それを見て、思わず固まる。



「オーナー、お話中のところ失礼します。ご注文の品です。」

「ああ!ありがとう、ダンテ。さ、これは僕のおごりだ。
 材料からこだわったんだ!ここの目玉商品の一つさ。」

「……」

「綺麗、ですね。」



うん、綺麗なのは認める。

プレートにいたるまでの細やかな細工、薫り高いカカオのガトーショコラに、
色鮮やかなクランベリーとオレンジのソース。
バニラビーンズをふんだんに使っていることが分かる極上のアイスクリームに、
香ばしい焼き菓子。

一つの作品として、洗練されたデザートプレートだ。
だがしかし、量が異常である。



「…これを、食べきれと?」

「遠慮するなよ?特にイベリスちゃんは朝からずっと走らされたんだから。」



疲れた時には甘いものが一番さ!

などと素晴らしい笑顔でプレートを進めてくるヘルゼイン。
善意と言う名の脅しである。

こめかみをひくつかせながら、必死に怒りを抑えようとしているスネイプを見て満足そうにしている。
ああ、この人はコレが見たかったのかと一人納得した。



「Mr.ヘルゼインは私の名前、知っていたんですね。」

「Mr.だなんて、そんな他人行儀な!名前で呼んでおくれよ。
 もう知らないもの同士でもないだろう?」



イベリスの台詞に、スネイプは訝しげな視線を2人に送った。



「すでにお互いに名乗っていたのではないのか?」

「それがさぁ、僕は名乗ったんだけど、イベリスちゃんガードが固くて!
 なかなか本人から教えてもらえなかったんだよねぇ。」



貴様はどこぞのチャラ男かと言いたくなるような台詞に、またもスネイプは眉を寄せる。
いちいち反応するからまたからかわれるのだと思う。
そう思うのは私だけだろうか?



「まぁ、それは置いておいて。君のことは魔法界では有名だからね。
 それに、お母さんそっくりだし?」



ヘルゼインはそういって、意味ありげな視線をスネイプに送った。
一方スネイプは、能面のように無表情だった。



「ご両親や君自身のことは、すでに聞いているのかな?きっと聞いているよね。
 セブルスが君の案内役なら、ホグワーツが動いたって事だろうし。」

「僕はね、君のご両親と同じ学年なんだ。2人とも学校では有名人だったから、顔は良く覚えているよ。」

「髪の毛はお父さん譲りだね。でも目と顔の作りはお母さんのものだ。」

「『生き残った女の子、イベリス・ポッター』だっけ?君のご帰還に、魔法界は浮き足立っているのさ。」



知ってたかい?

心底ばかばかしい。
皮肉気にゆがめられた微笑は、そう語っていた。

こんな小さな少女に、大の大人達がいったい何を期待するのか。
同じ魔法族として、情けなくてしかただない。

ヘルゼインは一般的な魔法使い達とは、随分違った考え方をしているらしい。



「君も不運だね。哀れすぎて目も当てられないくらいだ。」

「……その辺にしておけ、ベゼル。この子に言っても仕方がない。」



それもそうだと、ヘルゼインは先程の雰囲気を一変するかのような爽やかな作り笑顔を浮かべた。
カランと音を立てて、アイスココアの氷が落ちる。
だいぶ融けて、折角のココアが薄くなってしまったようだ。

さぁ、食べてと、イベリスは勧められたガトーショコラに手をつける。

チョコレート特有の甘ったるい触感。
その甘さは上品で、後から来るほんのりと混じった苦味。

目の前の人物のようだと思った。


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