09

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ロビーに行くと、セブルス・スネイプが腕を組み不機嫌度3割り増しで待っていた。



「案内ありがとうございました、ロノウェ=ザガン。」

「これが小生の職務にて、御礼を言われるほどのことではございません。」



それでは失礼、とだけ残してカウンターの奥へと去っていく子鬼を横目に、目の前の男に向き直る。



「……」

「お待たせしました。」

「……」

「そんなに睨まないで下さいよ。」

「……」

「トロッコ、あれ、私も苦手です。あまり乗りたくありませんね。」

「……ふん、行くぞ。」



よかった。
ちゃんと案内はしてくれるらしい。
気難しそうな人だから、最悪案内を放棄されそうで内心ひやひやだったんだよね。



「お金は?」

「ここに。これで足りますか?」

「十分だろう。かしたまえ、我輩が持とう。」



ありがとうございますと、素直に袋を渡す。
中身は金貨だから、あれでかなりの重量だ。
正直助かった。
流石は紳士の国、イギリス。

グリンゴッツを出て、近いお店から順番に用を済ませていく。
当初、彼が言った通り、寄り道など一切無い。
買ったものは全てダーズリー家まで郵送してもらうため、手荷物は金貨の入った袋のみ。
相変わらずの歩調で、猫のようにスイスイと先に行ってしまう彼を必死で追う。



(転びそう……)



だが、待ってくれと言うのは何だか悔しくて、はぐれないようにひたすら追いかけるしかない。

と、思っていたら、



「っ、あっ?!」



石畳につまずいて、本当にこけてしまった。
何の前触れもなく転んだ私に、通行人は邪魔そうに顔をしかめる。

外見は10歳の少女だが、中身はれっきとした大人。
何だか居た堪れない。

そして、案の定



「……気付いてくれるわけ、ないか。」



はぐれた。

全身真っ黒で、陰気な雰囲気をまとう背中は、色とりどりの人の波に呑まれ、見る影もない。
みっともなく座り込んで見上げる横丁は、雑多な音は耐えないのに何故か酷く静かに感じられた。
チラリといくつもの視線が私を捕らえるが、すぐに外される。
膝と掌にジンワリと押し寄せてきた熱に、目を落とすと思っていたよりも酷いすり傷があった。

だんだんと広がっていく自分の赤を見ながら、ふと気が付く。
自分は、彼に何かしら、期待をしていたらしい。



(仮にも、名付け親のくせに……)



彼の声を聞いたのは、生まれて初めてだ。(文字通り)
直接会ったのも初めてだ。
けれど彼の声を聞いて、彼を視界に入れて感じたのは、確かな安堵だった。

随分と都合の良い考え方だと、自分に呆れた。



「置いて行かれちゃったねぇ。」



いつの間にか、目の前にかがんで、面白そうに声をかけてきた人物がいた。



「僕個人としては、彼が子供を連れて歩くなんて、天変地異の前触れかなとも思うんだけど」



見事なシルバーブロンドに、狐のような糸目の男性。



「何度見返しても彼だし、君、面白いくらい必死になって彼の事追いかけるし」



いったい何時から見られていたのか分からないわけだが、



「まぁ、彼は案の定、子供の歩調なんか考えずに進んでいくわけだけれど」



頭の中の警鐘がなった。



「ものの見事に置いてかれたねぇ!」



面倒な人物に捕まってしまった。



「アハ!正直だねぇ、すんごく嫌そうな顔っ!」



何がそんなに嬉しいんだろう、この人は。
というか、そもそも誰?


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