07

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「何しに来やがった、ペテン師野郎。」



こっちだって別に暇じゃないんだよ、さっさと用件を言え。

私の回し蹴りからしぶとく回復した例の男に辛らつな言葉を惜しげもなく披露するイヴァン。
しかし世の中不思議なもので、彼と先程から奇妙奇天烈なことしか口にしない目の前の男は
意外なことに知り合いらしい。



「いやはや、シュレーガー君。君は相変わらずせっかちだね。凝り固まった眉間の皺はもう既に改善不可能な状態なのかい?」



そして彼は勇者かそれとも単なる無謀な愚者か。
あのイヴァンに対して、これほどすんなり嫌味を言い返せるような仲らしい。
だが、イヴァン自身は彼との交友関係に死ぬほど嫌悪を抱いているらしく、現に手にした杖を静かに相手へと構えていた。



「おっと、おふざけはこれくらいにして。今日は真面目な依頼のために来たのだよ。」



君にとって今の僕はビジネスパートナーってわけだ。
客は逃したくないだろう?

この人、イヴァンの弱みでも握っているのだろうか?
先程から、何故こんなにも大きな態度で出られるのか甚だ疑問だ。
そしていい加減この人が何者なのか気になる。



「……オイ、部屋に行ってろ。」

「あ、はい。でも、お茶の用意は良いんですか?」

「ペテン師に出すお茶なんざここには置いてねぇ。」

「おやおや、酷い。仮にも元同僚に対して何たる言い草。私の嘆美なる繊細な心に傷が付いてしまったら
 どうしてくれるんだい?遠慮はいらない、お茶ぐらい出したまえよ。」



嘆美なる繊細な心の持ち主は、間違っても図々しくお茶の催促をしたりはしない。
ここまで来ると思わず感嘆の声を上げそうなほどの傍若無人なお人である。



「それに、彼女にも是非この場にいてもらいたい。私の依頼は彼女が必要不可欠だからね。」

「……はぁ?こいつが何なんなのか、知っているのか?」

「いや?ついさっきノクターンで偶然と言う名の運命の下、出会ったばかりだけれど?」



そういうと、目の前の二人の男性は自分に顔を向けた。
何だか嫌な予感がする。
コチラに来てからというもの、嫌な予感ほど良く当たるというのはいやと言うほど実証されてきた。
どちらからともなく口を開く前に、私は急いで自分用にあてがわれた部屋へと全速力で向かう。

がしかし、そんな自分の考えなどお見通しな訳で



シュッ



「まぁ、そう急ぐ事ないじゃないか恩人の君。どうか私の頼みを聞いてくれないかい?」



ドアノブに触れるか否かの距離。
顔のすぐ横を紅い閃光が通り過ぎて行った。

振り返れば、うっそりと、それはもう満面の笑みで脅しともいえそうな『お願い』を言うお客様。



やべぇ、マジで面倒なのに捕まった



「お座りよ、恩人の君。お互い自己紹介とでも行こうか。」



誰だ、コイツ。
最初に会ったときと、雰囲気やら何やら、一から十まで全てが違う。
何なんだ、このびっくりサプライズショー的な展開は。



「私の名前はギルデロイ・ロックハート。君とは長い付き合いになりそうな予感がするよ。よろしくね?」



あれか、彼は二巻に出てくる『彼』なのか

とか

え、物語の登場人物で初めて会うのが『コレ』?

とか

性格、ちがくね?もっと馬鹿っぽくなかったけ?

とか、頭の隅で未だに冷静な部分の自分が目の前の状況に突っ込みを入れているが
とりあえず個人的感想は置いておいて今は目下の災難回避に全力を注ごう。



「ごめんなさい、無理です。よろしくしたくありません。回し蹴りしたことは謝ります。
 後生ですから、私の事はそっとして置いてください。」

「アハハ、ごめんね?こっちも結構死活問題だからさ。それに、基本的に私はしつこいらしいからね。」



暗に私に拒否権はないとでも言いたいのだろう。
最後の頼みの綱だと、先程から不気味なくらい何も言わない自分の『(仮)主人』に援護を求める視線を送っても、



「自分でまいた種だ。責任持って自分で刈り取れ。」



無常にも見捨てられた。









まぁ、解ってはいたけれど


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