06

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「あなたはまさに命の恩人、いや、運命のお人といっても過言ではない!」



なんで、



「あの時はさすがの私も死を覚悟しましたとも!ですが天は、あなたは私を見捨てなかった!!」



なんで、こんなことになってしまったのか。



ノクターンには似つかわしくない、この金髪の派手な格好をした男。
先程から自分のことを『恩人』などといっているのだが、何のことかさっぱりわからない。
こちらとしてはお使いのタイムリミットが迫っているのだ。
そのまま無視し、小走りで脇を通り抜けたまでは良かった、だが……



「恩人殿はお急ぎのようですね?ですが助けていただいてお礼も無しでは、この私の名に恥じてしまいます。」



そう言って腕をとられ問答無用で引き止められた。
いや、急いでいるとわかっているのならこの手を離しなさいよ。
常識的に考えてさぁ。

大の大人と十に満たない女児では力の差は歴然で、いくら振りほどこうとしても叶わない。
一瞬、命の危険すら感じたが相手の男の様子をみる限り
誘拐とか追いはぎとか、そういう類のことをするつもりはないらしい。



「放しなさい。私は貴方のことなんか知りませんよ。」

「あぁ、恩人は随分と謙虚でいらっしゃる!!
 この私の命を助けた、つまり貴方はこの魔法界の未来にとって多大なる恩恵を与えたといっても過言ではないのに!!」



何を言っているんだ、この男は。
随分と頭のネジがぶっ飛んでいることを大声でのたまったこの男に、言い知れぬ不快感やら恐怖やらを感じた。



 あれ? もしかしなくとも物凄く面倒な人種につかまったんじゃ……



自分の腕をがっちりホールドしたまま、目の前の変人は
頼んでもいないのに己の今までの功績とつらつらと喋っている。
ぶっちゃけ『なんとか勲章』だの『なんたらの名誉会員』だの言われても、
魔法界のことにまだ明るくない私にとっては意味のない話である。

ララがこの男を攻撃しない以上、私にとってこの男は脅威にならないということ。
だがしかしいくら直接的に危険はないとは言え、間接的にはそれこそ自分の命を危険にさらしているということを
この男は知るよしもないのだろう。



「……だから!こっちは、あんたなんか知らないって、言ってるでしょっ?!」

「グフッッ!!」



不本意ながらも鍛え上げられた脚力を存分に使い、私はいい加減目障りな男のわき腹に蹴りを入れた。
最初からそうしていればよかったと思うほど、男の手はあっさりと自分のの腕から離れその場に倒れ込む。

コレ幸いと、私はその場を全速力で離れた。



(あぁ、あぁ、あぁぁ!!時間が、ご飯が、イヴァンの説教が!!)



間に合え、間に合えと声にならない台詞を間の中で繰り返しながら
私ははひたすら走った。



あの男、次にあったときには問答無用で蹴り殺してくれる。

そう誓いながら。









誓った、筈なのになぁ。



あれ、おかしいな。
確かに撒いてきたはずなのに。
つけられている気配なんて無かったはずなのに。
今頃ノクターンの地べたに転がって、追いはぎでも何でもあってるとか思ってたんだけどな。



「な、なんで……」

「……お前、倉庫整理と書類の整頓追加だ。」

「ちょ、?!コレは私のせいじゃないんですよ?!あんまりです!!」

「…だまれよ。」

「い゛っ?!?!ギ、ギブギブ!!頭、いたた、ぃたいですってば!!」



問答無用で理不尽なほどの握力を持つイヴァンの右手が私の頭を押さえ込む。
今日は厄日か?



「やはり!私の目に狂いは無かった!ええ、そうですとも。
 分かっていましたよ、やはり貴方は私の運命の人だったのですね?!」

「この状況でどの口でそんな事がいえるんですかこの疫病神ーーっっ?!!」

「グホッッ!!」



本日二度目の回し蹴りが目の前のわき腹に綺麗に決まった。


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