03

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「 わんちゃん、待って、置いてかないでよ 」



そう言えば、まるで人間の言語を理解してるかのように歩調を緩めてくれる



 ………… 犬 ?



途方にくれて座り込んでしまった後、あろうことか私はそのまま眠ってしまったのだろう。
いまいち記憶があいまいだが、いつの間にか目の前にあった紅い双眸に声を上げることも忘れ、魅入っていた。



それは黒い獣だった。

犬、とも、狼、とも言えない、とにかく不思議で物言わぬ四肢の案内人。



ある意味、一目惚れだったのかもしれない。







「わんちゃん、どこから来たの?」

「ここに住んでるの?」

「君、毛並みきれいだねぇ。」

「……血、洗いたいなー。」



意味のない言葉を手持ち無沙汰に目の前の生き物に投げつけ
ふと、自分の今の格好に目をやる。

全身、とまではいかないが血まみれの服。

一日たったそれは、乾いて黒く変色してしまっている。
髪や肌に付いたそれらも似たような状態で、正直今の自分の姿は目も当てられないだろう。
浮浪児と思われても仕方ないかもしれない。

むせ返るような赤の香りにも、一日たてば慣れてしまった。
そのことに、自分への嫌悪感をよりいっそう募らせる。
ついでに言うと自分の靴などもうどこにあるかわからず、今は裸足だ。
足の裏が痛くてしょうがない。

だがしかし



「しょーがないよねー」



どうしようもないのだ。

夢だと思い込むにはあまりにリアルで
帰りたいと思うのに、もう帰れないのだと頭の中で誰かが主張する。
理由が、あるのかどうか知らないが、どうせ何を言われても私は納得しないのだろう
ならば、知らないままのほうが精神衛生上良いかもしれない。

ただ、このまま何もしない状況が続くのは、恐ろしかった。







いつの間にか現れ、鳴きもせず、捕食しようともしない。

ただただこちらを静かにみつめてくるこの子に、
なぜだか、ひどく安堵した。

そしてすがるように黒い案内人の後についていったのである。







「 ―――――― ゥグっ 」

「 答えろや、お前なにもんだぁ? 」



 結論 ――――― 怪しい人(生き物)に着いていってはいけません。



だんだん霞んできた視界に映えるのは 榛色の双眸

何故か見知らぬ男性に首を絞められていた。



(あれ、私、もしかしなくても死ぬの?)


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