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6月
連日の雨で、洗濯物も乾かないし、気分も最悪だったが今日は久しぶりに晴れた。
快晴とまでは行かないが、雲の隙間から、日の光が差し込んでいる。
うっとうしい傘を持つ必要がないので、身軽に散歩にでも出かけてみた。
道のあちこちに、水溜りが出来ていた。
小さいころに、水溜りに写る風景がことのほか好きで、よく長いこと覗き込んでいたことがある。
そのたびに危ないからと、それ以上水溜りを覗き込むことが出来ないよう、兄に手を引かれたっけ。
まぁ、どうでもいい話だが。
ちょうど足元に大きな水溜りがあったので、何とはなしに覗き込んでみる。
いつもどおりの自分の顔の後ろには、雲を切り貼りして水で流したような空。
もう一つの、別の世界がそこにあるように見えた。
そろそろ先に進もうかと、折っていた腰を上げると
――――――― トン
「 ぇ、 」
子供でもいたのだろうか。
誰かに、何かに押されて前のめりになる。
とっさに反応できなくて、思うように足が出ない。
ヤバイ、落ちる
この体制で水溜りに落ちれば、悲惨なことになるのは必須。
あせってもいい状況の中、水面に映る自分の顔は、憎らしいほどの無表情。
何とか受身をとろうと腕を突き出した瞬間
水溜りの中にいた自分が
笑った
――――― ザ ブ ン ―――――
水溜りに落ちたはずなのに
どうして地面がないんだろう?
どうして体が沈むんだろう?
視界が黒く塗りつぶされていく中で、誰かの声がした。
《 ヨウコソ 水面ノ向コウ側ヘ 》
「 ……え? 」
気付いたら、黒い水溜りの上に立っていた。
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