07
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仮面を被ったおっさんを落下の衝撃から守ったのはコナーの皮下脂肪ならぬ肉蒲団。
なんかコナーの奴泡吹いてるけど、まあ大丈夫だろう。
頑丈さが取り得のような物だからな、コナーは。
仮面のおっさん達が嘘をついていたと言う事が分かった。
しかもその理由がお互い一緒に居たかったからという何とも本末転倒な始末。
溜息でも出そうになったその時、“ヒュッ”と言う風の切る音が聞こえた。
「このニセ物!」
「ペテン師め!」
音の元は、町の若者達による投石。
その石の向かう先は、言わずもがな『精霊になれなかった者』を名乗っていた男女2人。
「最初から騙してたんだな!」
「俺たちの金を騙し取っていやがったんだ!!」
「返せ!」
「この嘘つき!」
理不尽、とまでは言わない。
だが、これはやりすぎだろう。
当たり所が悪ければ一生物の傷になっちまう。
舌打ちをして心弾銃を構えようとしたら。
それよりも早く後ろからトリガーを引く音が耳に入った。
ラグが座り込んでいる女の前へ庇うように立ち塞がったのと、レイジーの銀色の心弾が放たれたのは同時だった。
「なっ!?」
小さな小石がラグに当たる最中、拳大よりも大きい石はラグの所まで1つも届かなかった。
レイジーがどれもこれも撃ち落していたからだ。
思わず手に持った自分の心弾銃を構えるのも忘れてそちらを見てしまった。
「おー、当たる当たる!」
当の本人は、心弾が石に命中する度に嬉々としている。
まぐれなのか、本人の実力なのか。
いや、実力なのだろうが、如何せん今までこんな技術的な面を見た事が無かった分正直信じられない。
「な、なんだぁ!?」
「アイツ、化け物か!?」
「このっ……!」
それを見て恐れおののいたのか、町の奴らは標的をレイジーに合わせてきやがった。
おいおいおいおい、最初にオレが言った事、忘れたとは言わせねぇぞコノヤロウ。
「妨害行為したら……排除っつったろうがあ!」
オレにはレイジー程の技術は無い。
速い速度で投げられた小石を銃で当てるのもかったるく、直接町の奴らの足元に散弾銃の銃弾を放った。
「うわあ!」
案の定、散弾銃特有の予測できない弾道に町の若者の動きは止まった。
「てめぇらが勝手に信じて勝手に信仰してきたんだろう! それが嘘だと知ったら『ペテン師』だぁ!?
そのペテンにほいほい乗っかったてめぇらには非が無いってのか!」
「っ、お前に何が分かる!」
「知るかバーカ! 百歩譲ってその『ペテン師』とやらに石投げんのは良いだろう。ああ勝手にしろ。
だがな、仲間を傷つけるってんならこっちだって考えがある」
薬莢を交換してガチッという音と共に銃を構える。
標準は、目の前にいるリーダー格らしき男。
「国家公務を妨害したとみなし、『悪意』をもってその石頭に心弾をぶち込むぜ……!」
辺りがシン、と静まった。
目の前の男は青い顔をしてジリジリと後退していく。
「……金なら」
沈黙を破ったのは『ペテン師』呼ばわりされていた事の発端の女。
「集めた金なら祭壇の下にある。1リンたりとも使っちゃいない」
強い視線でそう言われて、町の奴らは逃げるように祭壇へ向かった。
女はそのままラグの腕を掴んで引き寄せ、何故か強く抱きしめた。
「サラ、さん……?」
「ありがとう……ありがとう坊や、ありがとうBEEの人たち……」
あちらはもう大丈夫そうだ。
そう思い、オレは心弾銃をしまって振り返った。
「レイジー」
「はいなー?」
「お前この町までのルートは覚えてるよな」
「おぅとも!」
「よし」
それなら問題ない。
先程から聞こえ始める町の人々の愚かな発言に、苦々しい思いをしながら、オレと同じような境遇の女に声をかける。
「あー……アン、さっきの奴らにはあんな事言ったけど、それと仕事は別だ。
ここの『テガミ』はオレかレイジーがこれから集荷しにくる。それなら奴らも手ぇ出さないだろう」
恐怖心を抱かせたオレやレイジーなら妨害もされずにテガミの集荷ができるだろう。
コナーや、間違ってもラグにはここに集荷させに来させてはいけない。
相棒(ディンゴ)がいるにしても舐められてしまいそうだ。
「……きみ、ザジ、だっけ? そっちはレイジー? 今何歳?」
「え、じ、14」
「同い年? へえ、そう……ふーん」
何を思ったのか、アンは俺達を頭から爪先までじっくり見てきた。
なんだか居辛い。「アン……!」
「!? みんな……!」
何処からか聞こえてきた声に、アンはすぐ振り返って走っていった。
助かった、どうしようかと思ってたのだ。
よく見れば白髪混じりだったり杖を突いている老人だったりと平均年齢が高い。
「……昔から住んでる人たちか」
人々はアンの無事が嬉しいのだろう、涙を浮かべて彼女を抱きしめている。
「ま、ここを出て行くこったな。あの人たちにも石投げられねえうちにさ」
隣で呆然としている仮面のおっさんを振り返ると、彼は涙を一筋流して項垂れていた。
自責の念なんて共感するに値しないが、まあ同情はするかもしれない。
ここにいる限り誰からも拒絶されるのだ。
それくらいする。
「なら博士の所に行くと良いよ」
ハキハキとした、高すぎない声にオレやコナー、仮面のおっさんが振り返る。
「ハントさんなら博士のお眼鏡にかなうと思うよ」
……ああ、あの腕ね。
レイジーの言わんとしている事に合点がいき、同情から哀れみへと気持ちが移った。
確かにあんな奇怪な腕を持っていればJr.の目にはつくだろう。
それが研究対象かどうかは言わないで置こう。
「んじゃ、オレらまだ仕事残ってるから先に行くか。コナーはおっさんを郵便館(ハチノス)に連れてっとけ」
「え!?一緒に帰らないの!?」
「一個仕事残ってるんだよ。行こーぜレイジー」
「はいはーい」
何時の間にやらヴァシュカの喉を撫で回しているレイジーに声をかけて町を出ようと歩みを進めた。
「待って!」
のだが後ろから腕を掴まれて否応無しに止まらさせられた。
見れば、アンがオレとレイジーの腕を掴んでいる。
「お礼もさせないで行く気? それは無いんじゃない?」
「いや……ホラ、お礼ならオレらよりラグとかに」
「あたしはあんた達にも言いたいの!」
先程よりいっそう強い力で掴まれれば逃げようにも逃げれない。
どうしようもなくて視線をうろうろさせていたら隣のレイジーと目が合った。
ニコリと微笑んでいるレイジーもこの状況には途方に暮れている、様な気がした。
あくまでオレの勘だが。
「ありがとう。二人ともまた来てくれるのよね?」
「……ああ、来るよ。だから離せって」
力が緩んだ隙に腕の拘束を解き、レイジーのも無理矢理離させた。
そのままレイジーの腕をひき、アンの声も尻目に町を出た。
(鬱陶しかった、と思ってたなんて、そんな負の感情をレイジーには気付かれたくなかった)
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