06

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予想通りギリギリにハニー・ウォーターズへ出発した。
今はレイジーにラグの事についてあれこれと教えながら向かっている。
そんな時、ふとレイジーが空を見上げた。

「どうした?」

「リジーが、急げって急かしてる」

なんだろねー、と間延びした口調の中歩調は確かに早くなった。
オレはまだレイジーの相棒(ディンゴ)のリジーを見たことが無い。
聞けば館長や副館長も見た事が無いらしい。
曰く、

「レイジー・ココシュカがいると言うなら、それは確かにレイジー自身の相棒だろう」

だそうだ。

「ザジ」

「あ?」

「地響きがする」

「え?」

「鎧虫が近くにいるかも」

言われてみれば少し地面が揺れている。
多分、オレ達の目的地から。

「……急ぐか」

「うん」

迷わず走り出した。
オレもレイジーも心弾銃を構えながら。
余談だが、こんな時でもレイジーは笑顔でいるのだ。










ハニー・ウォーターズに着いて、すかさずオレは銃の引き金を引いた。鎧虫が地面から顔を出していたからだ。

「……ったく、だらしねえんだからよ」

村人に心弾銃を取られ、尚且つ抱えられてるラグを見つけた。

「とっとと、片付けるぜ」

いっぱしのBEEが何やってんだか。
やれやれと思いながらその村人に膝蹴りをかますべく走り出した。

「このガキ……!!」

「ザジ! 危ない!」

ラグの声で、膝蹴りで伸びた村人の隣にいた男が殴りかかりにきたのが分かった。

「うりあー!」

「ぐはっ!」

心弾銃を構える前にレイジーが男の腹を蹴り飛ばした。
思わず口笛を吹いた。

「ナイスだレイジー!」

「ぃえい!」

ブイサインを作って此方を振り返る。
相変わらず気持ち良い位に笑顔満開だ。
その間にも向かってくる他の村人には銃口を向けて止まらせた。

「郵便配達は国家公務ですから、あなた方がBEEの配達を妨害する場合鎧虫同様に排除することになります」

「なにを「うるせえ!」

「!」

「調子こいてんじゃねえぞてめえら! そこのBEEほどオレは甘くないぜ!」

言いたい事を言ったと同時に鎧虫シールドが地中に潜り込んだ。
あーったく、手間がかかってなんねえ。

「ザジ……!」

パタパタと走り寄ってきたのは先日BEEの仲間入りを果たしたラグ。
情けなく躓いて転びそうになっている。

「配達帰りによってみりゃこんなんだもんなー! ほんとに頼りないからさお前らって!」

そこまで言えばラグはむっとしたような表情になった。

「やっぱオレがいないと……!?」

悪戯心でもうちょっとおちょくってやろうかと思ったが、ある物が目に付いて言葉が止まった。
大量の未配達の手紙。

詳しく聞くと、この町で配達拒否していたのは一部だったらしい。
そして、テガミを町からを運び出そうとして鎧虫の犠牲になった者がいて、その娘がテガミの近くで座り込んでいる女。
一瞬、昔の自分と重ねてしまった。

「ザジ……」

ラグが心配そうに覗き込んできた。
……レイジーなら笑顔で覗き込んでくるだろうに。

「今から言う事よく聞けよ。シールドを追い込む。……レイジー!」

「はいなー?」

先程村人の一人を蹴り倒してから、ずっと顔を抓ったりして遊んでいるレイジーに声をかけた。

「オレが合図したら心弾を空中に無駄撃ちしてくれ。シールドを地上に誘き出す」

「おっけー!」

さて、これから腕の見せ所ってか?





**********





途中までうまくいっていた。
コナーの黄爆で追い込み、レイジーさん(?)の心弾に釣られたシールドを地上に誘き出した。
そしてザジがシールドを引っくり返した。
そうしたら急に足場が崩れてテガミ諸共ぼくは地下通路に落ちてしまったのだ。

「あいたー」

しかもレイジーさんを巻き込んでしまった。

「すすす、すみません!」

「あははー平気だよ!君の所為でもないしね!」

なんだか笑顔が眩しいです。

「早く行かなきゃなぁ、結構あっちは危ないかも」

「え?」

「アンって子も崩れた地面の縁にいたからね、落ちてても可笑しくないよ」

……ザジや博士から聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。
こんな時でも、本当に笑顔を絶やすことが無い。

「行くよラグ!援護はこのレイジーにお任せあれ!」

「は、はい!」

今はそんな事言ってられない。
急いで地下通路を走った。
……あれ?何でレイジーさん、迷わず方向が分かるんだ?





**********





力が入らない。
ココロを奪われる感じってのはこんなんなのか。

「っ、きっしょく悪いなあ!」

どうにかして逃れようともがけばもがく程締め付けが強くなる。
段々と気が遠くなってきた。

「出でる飛弾は『悦楽』の欠片……」

「!」

聞き覚えのある声と台詞。
ああ、レイジーは無事だったのか。

「奏でろ、銀旋(しろがね)!」

銀色の閃光が目の前を掠めた。
オレの体を絞めていた物がバラバラと緩んで外れた。
受け止められた感覚と視界に入った癖のある髪の毛。
レイジーに受け止められたらしい事は分かった。

「響け、ココロの欠片!」

今度はラグの声。
……なんだ、今までラグと一緒にいたのか。

「赤、針ーッ!!」

赤い光が辺りに満ちた。
収まった頃から見え始めた、多分仮面の男の記憶。
ラグやその他の者はそれに見入ってる。
オレはまだ力の入らない体をレイジーに預けている。

「ヴァシュカが来たよザジ」

ニコリと笑うレイジーの隣からヴァシュカが顔を出した。
ゴギャー、と鳴いて頬擦りをしてきた。

「……心配かけたなヴァシュカ」

耳の後ろを軽くかいてやれば、ヴァシュカは満足そうに目を細めた。

「サンキュなレイジー。お陰で助かった」

「これくらいお安い御用!」

オレが立つのを手伝いながらレイジーは嬉しそうに答えた。
此方としてはレイジーに助けられた事が酷く情けないと思っているのだが。
BEEの古株の肩書きは伊達じゃないのも事実だから何も言えない。

「ってかレイジー、お前ちゃんと狙えるじゃねえかよ。なんだ今までの『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』みたいな撃ち方」

「そっちのスタイルのが僕には合ってるんだよ!」

「ふぅん?」

オレが今言った通り、レイジーがまともに一発で心弾を当てた所を初めて見た。
いつもならこれでもか! と言う位連射(寧ろ乱射?)を繰り返してる。

「コナーの肉布団!」

「あ、ホントだ」

コナーの皮下脂肪によって受け止められた仮面のおっさん。
取り敢えず一仕事は終わった。
話くらいは聞いてやろう、と思い、隣のレイジーと共に歩みを進めた。


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