05

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「最近は眠れてるのか?」

「うん?んー、ん」

「……どっちなんだ?」

「ん−ん」

「眠れてないんだな」

「えへへー」

配達の前、サンダーランドJr.から最初に確認するよう言われていた。
思った通りあまり寝ていないらしい。
見る限り寝不足のようには見えない。
だがそれは表面上だけ。
よくよく見れば目を放した隙に目を擦っていたりした。

「……打つからな」

「痛くしないでね!」

「あー……うん、分かったから」

勘違いされるような受け答えをしないでくれ。
オレはただ睡眠薬の注射を打つだけだ。
……十分危険な発言だがそう言うんじゃないんだからな!





**********





走って走って、散々探した割にはケロリと町の住人と話し込んでいた。
しかも反省の色は皆無。
……ぜってー今度から探してやんねー。

「ベッドふかふかー!」

「そうかよ」

当の本人がこんなんじゃ心配したオレが馬鹿らしく思えてしまう。
思わずため息をついたら後ろから引っ張られて情けない声を出しながら倒れた。
幸い、倒れたのがベッドの上だったため痛い思いはしていない。

「ってめ、何すんだレイジー!」

「ため息、ついちゃダメなんだよ?」

「っ、誰のせいだと……」

笑顔だ。
またこの、レイジーの屈託の無い笑顔。
その笑顔を見るとなんだかココロが落ち着く。
ココロが、和らぐ。

「……」

「ザジ?」

ニコリと笑う。
それだけで人のココロはこんなにも穏やかになる物だろうか。

「……なんでそんなに笑ってられるんだ?」

「毎日が『悦楽』で溢れてるからさ!」

「……そうか」

きっと、どんな些細な事でもレイジーは幸せを、『悦楽』を感じる事ができるのだろう。
だからこんなにも、絶え間なく幸せそうに笑みを絶やさないのだろう。
だから、こんなにも他人への影響が強いのだろう。

「……そろそろ寝るか。明日早いし」

思えば宿に着いた時間は結局かなり遅くなった。
今から寝ないと明日郵便館(ハチノス)に定刻通り帰れない。

「うん、おやすみザジ!」

「……」

片手を振ってニコニコニコニコ。
見るからに寝る気が無さそうだ。

「ああそっか。薬打たないと寝れねーんだっけか」

持ち物の鞄から受け取っていた金属の小箱を取り出した。
そして、中から判子のような形の注射器を取り出した。
その瞬間、レイジーが予想もしない行動にでた。

心弾銃の標準を、此方に合わせたのだ。

「お、おい、レイジー?」

余りにも突拍子も無い事に固まる自分の体。
レイジーは、未だ笑顔だ。

「それ、なぁに?」

声や表情だけ見れば何てことは無い。
しかし、目の前に突きつけられた銃口だけがその場にそぐわなかった。

「っ、さ、サンダーランドJr.から頼まれてた、睡眠薬の注射だ。自力で寝れない体質だからって、これを……」

「……博士の心配性だなぁ。ううん、心配性はアリアの特権かな」

1日位平気なのに、と呟きながらレイジーは銃をしまった。
途端に強張った筋肉の力が抜ける。

「ごめんねザジ、ビックリした?」

ニコリと、変わらない笑顔。
今はその笑顔に違和感を感じてならない。

「僕、注射嫌いだから、薬の匂いを嗅いだ時と注射器見た時は反射的にこうなっちゃうんだ」

「そう、か。悪ぃ、次からは声かけてから出す」

只事じゃないと思った。
単に嫌いなんじゃない。
今のは、多分トラウマか何か。

「ありがとう!」

何も聞かなくて正解だった。
レイジーは、いつもの屈託の無い笑顔になった。
その後オレはレイジーの腕に注射を刺し、レイジーの寝息を聞いてから隣のベッドに入った。
……郵便館に帰ったらサンダーランドJr.を問い詰めてやる。





**********





「(で、そういやまだ聞けず終いだったっけ……)」

「ザジ?」

「ああ、悪ぃ」

注射を打つ途中で物思いに耽ってしまった。
慌てて止まっていた手を動かして注射を終えた。

あの配達が終わった後、郵便館に帰ってサンダーランドJr.を探したが見当たらなかった。
それからは餌付けしていた野良猫の恨みがあって結局話せないでいた。
まあ猫の件についてはオレの勘違いだったが……。

「明日は今日の奴と別の配達。っと、配達ルート、ハニー・ウォーターズに掠るな……」

「今日話してた、ラグ・シーイング?」

「そうそう。アイツ頼りないからさ、ちょっと様子見に行って良いか?」

「んー、良い、よ……」

「……無理しなくていいから寝ろ」

「んー、おやすみー……」

間もなくレイジーの規則正しい寝息が聞こえてきた。
明日は予定より遅く起きても大丈夫な事を確認して自分も眠る体勢に入る。

「(暫く寝てなかっただろうからギリギリまで起こさないでやるか)」

そんな事を思いながらヴァシュカの頭を一撫でし、眠りについた。


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