03
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先程まで微かに聞こえていた副館長の心弾のメロディー。
それを口ずさんでいると前方に目当ての人物が見えた。
「よぉ、ご無沙汰」
声をかければすぐさまこちらを向くと知っている。
空に向かって話していたレイジーはパッと振り返りいつもの表情でオレを迎えた。
「ご無沙汰! 今度もよろしくザジ!」
溢れんばかりの笑顔。
そう言えばオレは、笑顔以外レイジーの表情を見たことがない。
あとは寝顔くらいか。
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またレイジーと組む事になった。
館長曰く、オレとレイジーは「相性が良い」らしい。
「今度もよろしくザジ!」
「ああ」
ニコニコと笑う様子は相変わらずだ。
「ザジ、ちょっと……」
副館長に呼ばれて奥へ行く。
そこには死骸博士とも呼ばれるサンダーランドJr.が立っていた。
声に出して「ゲッ……」と言わなかった自分を褒めてほしい。
「この子が?」
「ええ」
何か示し合わせたようなやりとりに思わずしかめ面をした。
そんな事もお構い無しにサンダーランドJr.はオレに近づき、小さな金属の小箱を差し出してきた。
「今回は2日かかる少し遠出の配達。宿を取るなり野宿なりをする事になる。……これはレイジー・ココシュカ専用の睡眠薬だ」
「睡眠薬?」
物騒、と言う程でもないがごく普通に生活するなら活用しない語彙に疑問を抱いた。
「レイジー・ココシュカは自力で睡眠を取る事のできない体質です。先日まで数回、遠出の仕事はモック=サリヴァンと組ませましたが今回は日程が合いませんでした。
そこで以前配達を共にした貴方とレイジー・ココシュカを組ませる事になったのです」
淡々と副館長から説明をされる。
オレが知らなかったレイジーの事。
レイジー本人から聞かなかった事にほんの少し罪悪感が生まれた。
てかモック=サリヴァンとも配達したのかアイツ。
「本来は注射針で注射するんだがな、初心者には危険だら少し改良した」
その後、注射器の扱い方から注射するタイミングまで事細やかに説明された。
……レイジー待たせたまんまだなぁ。
「待たせたな、行くか」
「おぅともよ!」
待ってる間銃のメンテをしていたのだろう。
レイジーは手にしていた心弾銃をしまってこちらに来た。
「途中までは馬車の移動、その後徒歩で町に入って各手紙の配達。立ち寄れる町にはなるべくよって手紙を収集・配達。
一泊宿に泊まって帰りは全部徒歩。道中に鎧虫出現ポイントは無いが気を付けるにこしたことは無い、と。
……鎧虫、いないのか」
地図を見ながら道筋を口に出す。
最後の言葉は、思わず出てしまった。
「鎧虫に、いて欲しいの?」
はっとした。
レイジーが覗き込んでいるのにも気付かなかったとは。
「……そうだな」
「何故?」
「両親の……仇だから」
何故こんなにもさらりと言ってのけたのか疑問だ。
まだ二回しか会った事が無い奴に喋る話ではない。
「ザジ」
……ああ、そうか。
レイジーなら、全部何ともないように受け入れると思ったからだ。
いつもと変わらぬ満面の笑顔で。
「“ザジ”が“ザジ”のままでいられるなら、僕は君を応援するし協力するよ」
ニコリと、満開の笑み。
普段なら偽善だと言って突っぱねる言葉も、今回ばかりはそう言わなかった。
「……サンキュ」
笑顔につられて、ココロが和らいだから。
レイジーとコンビの配達の時くらい、別に鎧虫がいなくても良いかと、そう思えた。
ルート説明書き通り行きの道のりではこれといった事もなく予定より早く町に着いた。
「郵便でーす」
町に入って早々、オレとレイジーは一旦別れて配達を開始した。
オレの方は今ので終わりだ。
レイジーの方はどうなっているだろうか。
「……ちょっと探してみるか」
今宿泊先を決めたとしても結局レイジーを探さなければならなくなる。
先にレイジーを拾った方が得策だ。
暫く歩いて気がついた。
この町はなんだか雰囲気が二分割されている。
先程までオレが配達していた地域は比較的活気もあり、BEEに悪い印象も持っていなかった。
しかし、レイジーが配達しているであろう此方はどんよりと陰湿で、人々は目を爛々とぎらつかせている。
胸騒ぎがした。
最終的にオレは走りながらレイジーの姿を探していた。
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